2016年8月26日公開の、新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』の感想だよ。
見に行ったのがとても忙しい時期でタイミングを逃してしまった感はあるけど、まだまだ人気が衰えそうにないので、改めて感想や解説を書いていきたいと思う。
- 『君の名は。』マジでスゴい!
- ネタバレ注意!
- 美しい風景描写は恋をしてる人が見る景色?
- ストーリーが秀逸
- 『君の名は』のどこに感動したか
- 新海監督の「キモかっこよさ」がステキ!
- 新海誠は「ポスト宮崎駿」になれるのか?次回作は?
『君の名は。』マジでスゴい!
まず、『君の名は。』がどれくらいスゴイかって話。
- 累計興行収入194億円を突破(『もののけ姫』を超えて、『千と千尋』超えなるか?…といった情況)
- 中国での公開1日目で興行収入10億、公開から3日で約26億円!
- 台湾、タイ、香港などでも放映されていて、各指標でランキング1位になる大ヒット
- 英語圏でも放映、英語版のタイトルは「Your Name」
- 「ディズニーにはなしえない」と米国メディアが大絶賛
- NHKの「クローズアップ現代」でも特集され、トランプ大統領誕生と同じ扱い
- アカデミー賞の審査対象にもなってる!(まだ結果は出ていない)
などなど、歴史に残るアニメ映画になった。
ネタバレ注意!
ネタバレ有りで書いてくので一応警告。
『ほしのこえ』や『秒速5センチメートル』など、同じ新海誠監督の過去作にもちょっと触れていくので注意。ただ、どの作品も「あらすじ」を知っていたからといって魅力が減るようなものではないので、気にしなくていいと思う。
『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5cm』『言の葉の庭』などの過去作は、ネットからは「hulu」や「U-next」で視聴可能。
動作サービスとしては「hulu」がおすすめだけど、無料視聴期間は「U-next」のほうが長い。
最初期の短編アニメ『彼女と彼女の猫 Their standing point』や、Z会のCMとして作った『クロスロード』は、新海誠の公式サイトから無料で見れる。
Other voices-遠い声-
ただ、『君の名は。』に新海誠の魅力が全力で発揮されていると思うので、無理して過去作を見る必要はないと僕は思う。
僕自身が受けた影響で言うと『秒速』が圧倒的なんだけど、『君の名は。』に感動した人があえて『秒速』を見ることもないんじゃないかっていうね。
『言の葉の庭』は見る価値のある作品かもしれない。RADWIMPSの『全前前世』など選曲に定評のある新海誠だけど、特に秦基博の『rain』は神ってると思う。
前置きはこのくらいにして、『君の名は。』の感想を書いていくぞ!
美しい風景描写は恋をしてる人が見る景色?
新海作品は、「動き」を重視するアニメーションというよりも、静止画の時点で惹きつけられる映像美がまず魅力的だと思う。
これは、太陽を2つ設置したりと、現実ではありえないような光の入れ方をあえてやったりしてるらしい。
ふとしたときに、何気ない景色の美しさに気づくことがある。そして、その感動を写真で残そうとしてみて、まったく上手くいかないとき、「人間の目ってすごいなあ」ということに気づく。
カメラがとらえる情報と、人の思いが作り出す景色は、別のものなのだ。
何を言いたいかと言うと、客観的なもの以上に美しく見る力が、人間には備わっているということ。
新海誠の映像が美しいのは、頭で景色を補った先の、主観的な世界が描かれているからだ。
緻密に描いているように見えるかもしれませんが、実は思い切り主観的に抽象化しています。アニメーションだからこそ、キレイな要素だけをうまく強調させられるんです
と新海自身が言っている。(参考:新海誠監督が『君の名は。』で一番こだわったのは「時間軸」 | ニュースウォーカー)
初期の作品ほどそれが表れてるけど、ただキラキラしてるだけじゃなくて、どこか内省的なところがある。
みんなが共有している景色ではなくて、一人称で綴られる言葉のような文学的な内面を、作画で表現している。
スタンダールという作家が、恋愛を「結晶作用」という言葉で説明したことがある。

- 作者: スタンダール,大岡昇平
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塩に満ちた坑道の奥に、木の小枝を投げ込んでおく。
2、3ヶ月もした後にそれを拾い上げると、ダイヤモンドのようなまばゆいばかりの結晶に覆われている。
もともとは単なる木の枝に過ぎないのだけど、恋をする人は、様々な美しいものを相手に関連づける。
最初にこれを知ったとき「へえ……」としか思わなかったけど、新海作品を見ていると、わかる気がしなくもない。
何かを美しく感じたとき、それが恋の感覚と結びついているように感じるときは、たしかにある。
ただ、新海作品の登場人物が思いを馳せるのは、木の枝のようにはっきりとした形があるものではない。
新海作品において、対象が確かさを持たないまま、「恋愛」の感覚と美しさを結晶にする作用だけが、どこか遠くの遥かなものへ向かって研ぎ澄まされていく。
結局のところ、生身の人間なんてものは単なる「小枝」に過ぎないのだけど、確かなものに触れるまでの過程が美しいわけだから。
『君の名は。』のキャッチコピーは「まだ会ったことのない君を、探している」というものだけど、その美しさは、「君」と「まだ会ったことのない」ことに拠っているのだろう。
もちろん、これは恋愛のごく一部の側面にすぎないし、基本的には童貞の考え方だ。四半世紀生きていまだに童貞の僕が言うのだから間違いない。
新海自身は既婚で子供もいるが、童貞の気持ちを忘れず、童貞っぽさを突き詰められるところに彼の天才性があるのだと思う。
恋愛の機微や倦怠を経験した人からすれば、新海誠の世界観も、「ふはっw なんかキラキラしとるw」で終わってしまうかもしれないし、というより前作まではわりとそんな感じだった。もともと一般受けするような作風ではなかった。
『君の名は。』は、新海誠の世界観を如何にしてメジャーなものするか、という企画だと思う。そして結果的に、楽観的な期待すら大きく上回るほどの成功をおさめた。
それは偶然なのか、あるいは多くの人が新海誠を求めていたということなのか……。
ストーリーが秀逸
もともと『君の名は。』を見る前に過去作はほぼ全部見ていて、その経験から言って、話の筋には特に期待してなかった。
そして、「予想の数十倍脚本が良かった!」というのが、素直な感想だった。
- 「男女の入れ替わり」というキャッチーな設定
- コメディから急にサスペンスっぽくなり、段々スケールが大きくなっていく話の展開の上手さ
- 死んでしまった三葉たちの名前を確認するホラー映画レベルのドキドキ感
- 3年の時間がズレていた、というどんでん返しの要素
- 山頂での「出会い」の切ないシーンが最高に良い
- 矛盾やリアリティの欠如を上手くごまかしている「夢」というモチーフ
などなど、優れたところがたくさんある。
ただ、ストーリーは新海誠が一人で考えてるわけじゃなくて、チームで作っている。
Wikipediaからの引用で申し訳ないが、
クレジットにおいて新海は原作・脚本・絵コンテ・編集と表記されているが、制作において自身が果たした主な役割は絵コンテと編集、特にビデオコンテだと語っている。脚本は新海だけでなく川村元気をはじめとする東宝のチームとの協同
とある。(実際のソースは「ユリイカ 2016年9月号」の「特集*新海誠」。)
脚本は複数人で考えているということだが、これは特殊なことではなくて、長い製作期間をかける大作ならむしろ当たり前だ。
もちろん、脚本、作画、キャラデザ、声優、音楽などなど、色んな要素を取りまとめて最終的な作品を形作る最も重要な役目は新海誠の仕事だし、ストーリーにしても、前作までで確立されていた「新海誠の世界観」の延長で、よりたくさんの人にウケるように……という志向で作られている。
「どこかで誰かを探している」という新海らしいコンセプトをエンタメにするための、「男女の入れ替わりが起こったけど、夢だったから記憶をなくした」という設定はかなり見事。
瀧達が隕石の落下を知らなかったこととか、3年時間がズレてても気づかないこととか、その他色々なリアリティの欠如(高校生の男女の身体が入れ替わったらおっぱい揉むってレベルじゃねーぞ!)も、「夢だったから……」ってことにすればまあ、わりとなんとかなる。
ストーリーに欠点があるとすれば、ある種の決定論みたいになってることかな。
もともと、運命的な結びつきではなく、すれ違いうる二人だったからこその新海作品なわけで、「隕石から村を守るために入れ替わりの能力を備えた宮水一族」って設定はちょっとぶっとびすぎw
ただ、フィクションなのだし、矛盾とか整合性がとれないから駄目っていうのはくだらない考え方だ。
総合的に見れば、ほぼ完璧と言えるくらいよくできたストーリーだと思う。もちろん脚本の部分だけが独立してるわけでもないけどね。
『君の名は』のどこに感動したか
個人的に一番感動したのが、最後のほうの、糸守を救ってから時間が経ち、それぞれの登場人物のその後が描かれるシーン。
瀧と司と真太が内定の話してたり、四葉が高校生になってたり、さらに時間がとんで、結婚指輪つけた奥寺先輩が「君もいつかちゃんと幸せになりなさい」って言ったり、てっしーと紗耶香が結婚式の話してて、瀧がしょんぼりしてる場面で、「うわあああああ新海誠作品だよこれ!」ってなった。
「結局これをやりたかったんだよね?」って思ったし、そこに感動した。
新海作品には、登場人物の強い感情が描かれてるんだけど、一方でその背景には長い時間の流れがある。
明確じゃないけど強い、何かへの思いが、現実的な生活に紛れていったり、日々の隙間に再燃したりする。そういう、どこか病的に続いていく恋の主観的な美しさが、童貞を極めた新海誠の世界観だと思ってる。
「そのような思い方」が新海作品の重要な部分であって、最終的にそれが実を結ぶのかどうかは、とるに足りないことだと僕は考えている。
『ほしのこえ』は最初から引き裂かれた恋の話だし、『秒速』はすれ違ってしまうし、『言の葉の庭』の恋も、おそらくはうやむやになっていくのだろう。
『君の名は。』は、ハッピーエンドだろうと思われる結末になってるし、それをある種の「裏切り」ととる人もいるのかもしれないけど、個人的には結末みたいなものはどうでもいい。まあ、恋が実らないほうが童貞のメンタリティに添っているというのはわかる。
あと、そもそもが「新海誠」をいかにメジャーにするか、という作品なので、「新海誠」としての「次」を期待していた古参のファンからすれば、「大衆に迎合しただけじゃねーか」となってしまうかもしれない。
商業的にこれほど成功しながら、普通に「新海誠」だってことが物凄いんじゃないか、と僕は思うけどね。
山頂での邂逅は、「会った」とも言えないような儚さと切なさを描いた名シーンだと思うけど、あれも過去作から続く「新海誠の世界観」に紐付けるような形で用意されたものだろう。
あと、『君の名は。』のここまでの成功は、制作に関わった人達が、新海作品への強いリスペクトを持っていたことが大きな要因なのかもしれない。あくまで「新海誠」の延長で作ろうとしたからこその完成度だと思う。
「立花瀧」役の神木きゅん(神木隆之介)だって『秒速』の大ファンだし童貞力が備わってるんだぞ!
新海監督の「キモかっこよさ」がステキ!
『君の名は。』の大ヒットで、新海監督はいろんな対談やインタビューをしてる。ちょくちょく見てたけど、それがなかなか良かった。
栗山千明とか椎木里佳とか、基準がよくわからないけど若い女性とむやみに対談してるのが、「童貞」を掲げるアニメーション監督の大家って感じがしてつよい。
インタビューの動画などを見ても、キモいんだけど、キモいままで自信に満ちてるところがかっこいいと思った。
「ゆきちゃん先生」は花澤香菜ちゃんともう一度会いたかったから出演させたんですよおとか、「口噛み酒」はフェチ要素を入れたかったからですうとか、普通身体が入れ替わったらおっぱい揉みませんか?……みたいなことを堂々と語っていて、キモいんだけど、そのキモさに迷いがない。
「ポスト宮崎駿」に期待がかかるような変態色の覇気を感じる。男子たるものこうであらねば。
『ほしのこえ』のインタビュー時と比べても、だいぶ人馴れもしてるし強くなってる感じがする。
いや、垢抜けてない若い頃の新海誠も淡々としててかっこいいけどね。
新海誠は「ポスト宮崎駿」になれるのか?次回作は?
『君の名は。』は、新海自身が「奇跡的な巡り合わせ」と言っていたので、この先同じような好条件が整うかはわからない。
大ヒットしてしまったことの弊害として、これから何をやっても『君の名は。』を超えられないのではないか、というのがある。(いや、何が起こるかわからんけどね。)
しかし、もう新海誠は「国民的なアニメーション監督」になってしまった。
というのは、ジブリだから映画館に行くとか、村上春樹だから本を買う、みたいな層が一定数いるように、これからは「新海作品だから見る」という効果が期待されるようになる、という意味だ。
新海自身が何を考えているのかはわからない。
個人の作家性で表現できる範囲のことをやりたいと思ってるのか、ポスト宮崎駿としてのビックな長編アニメを作っていくのか……。
ただ、ここまで来たら周りが簡単に降ろしてくれなさそうな気もする。
新海監督は、けっこう器用に色んなものを作れる印象がある。
『Z会』や『大成建設』や『野村不動産』などとコラボして、企業の宣伝用の短編アニメもけっこう作ってるんだけど、それがすごく上手い。
企業の宣伝であるにも関わらず、「もっと見たい!」と思ってしまう動画になってる。
インタビューなどを見てても、宮崎駿や庵野秀明よりも人当たりが柔らかい感じがするし、まわりから愛されてる気もする。(実際のところはわからないが。)
人望があってチームプレイに向いている人なのかもしれない。
もし『君の名は。』が各国で高い評価を受けたら、次は企画段階から世界を目指すことも可能になるわけで、大規模なチームを作って、他の監督にはできない規模の長編アニメを作ってほしいなあ、見たいなあ、と思う。
ただ、それは本人が決めることだし、まだブームが続いているのに「おかわり」を要求するのもはしたないわけで、もう一回映画館に行って興行収入の加算に貢献したり、上映が終わった後はDVDや関連商品を買う……というのが大事なことなのではないかと思います!
というわけで、素晴らしい作品を残してくれた新海誠監督や、RADWIMPSや上白石萌音さんなど、制作に関わった色んな方々に感謝!
以上です。
ここまで読んでくれた方もありがとう。
あ、感想など書いていきたかったら気軽にコメント欄にどうぞ。

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