「DeNAパレット」非表示の衝撃
代表取締役社長兼CEO 守安功からの一連の事態に対するお詫びとご説明 | 株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】
けっこう驚いたニュースでした。
大企業が金と人材をかけて続けてきた事業を、ネットの炎上が潰した事例で、これほどの案件は他にあまりないと思います。
もちろん、非表示にした他の9つの合計よりも「MERY」単体のほうがずっと価値は高そうなので、トカゲのしっぽ切りに過ぎないのかもしれませんが。
ただ、あれだけ叩かれている「はちま」や「JIN」もいまだに元気にやってるわけで、ネットの批判によって大きなメディアが潰れる例は珍しいと思います。「iemo」や「Find Travel」だってそこそこ大きな媒体だったわけだし。(まあ「非公開」なので復活する可能性も高いですが。)
今回は、「叩かれてもいいから数字稼げれば勝ち」という方針にヘイトが貯まっていたのに加えて、「WELQ」の炎上が「命に関わる問題」だったのが大きいと思います。東京都福祉保健局からも呼び出されたみたいだし。
医療や心の問題は、人にとって切実なものであるがゆえに確実な検索需要があるし、内容もよく読まれやすいから、収益につながりやすい。
「死にたい」検索トップの「welq」の記事、DeNAが広告削除 「不適切」指摘受け - ITmedia ニュース
「WELQ」は、「死にたい」という検索ワードを狙って、そこから転職サービスの自己分析テストのアフィリエイトへ誘導しようとしていたわけで、これはたしかに「一線を超えている」と思います。
「DeNA」のCEO守安功の「お詫び」ですが、はてブの意見では賛否両論になってます。
代表取締役社長兼CEO 守安功からの一連の事態に対するお詫びとご説明 | 株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】過去MERYにはかなりパクられてるからなぁ… 併せて閉鎖しない理由が分からない/追記:当該記事全て消えた
2016/12/01 16:59
代表取締役社長兼CEO 守安功からの一連の事態に対するお詫びとご説明 | 株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】非公開化というDeNAの対応に対し好意的なコメントが多くて意外。DeNAにとって「MERYはスマホアプリもあるし基幹事業だからキツいけど、他はサッサと非公開化してもダメージ少ない」以外の何物でもないわけで
2016/12/01 18:55
みたいな、「MERYも消すべき」というコメントが多いのですが、これはまったくもって正当な批判でしょう。
もともと、パレットの構想は「MERY」の成功が前提としてあるわけで、
マニュアルやライターの方々への指示などにおいて、他サイトからの文言の転用を推奨していると捉えられかねない点がございました。この点について、私自身、モラルに反していないという考えを持つことができませんでした。
と述べるなら、少なくともお詫びの文中で「なぜMERYは消さないのか?」に形だけでも触れるべきだったと思います。
もちろん、儲かってる「MERY」は潰したくないだろうし、体面としては別会社「ペロリ」のサービスだから……ということになってるのだと思いますが、そこに一切触れずに「お詫び」とするのは誠実な文章とはいい難いと思います。事態を重く見ている人が30%の報酬減なんてことをわざとらしく文面にするわけがないとも思う。
ただ、一方で
- 責任者として素晴らしい判断
- 叩いてた人も戸惑うくらいの完璧な謝罪
- ケジメはつけた。ここからが再スタートだ!
- 神ってる
みたいな意見も多いです。
文章から受けた印象からは、僕はなかなかそうは思えなかったけど、他の9つを非公開にするという判断はけっこうすごいことだと思います。
たしかに「MERY」を残すのは筋が通らない。
しかし、相手が何かしらの非を認めたときに、だったら最後まで追い詰めていいという世界になると、結局は誰も謝れなくなってくわけで、今回のDeNA社長が自分の言葉で謝罪したこと自体は評価するべきだとは思います。
「WELQ」だけを切って他は一切触れない、という選択肢もあったはずなのに、他の「MERY」以外も見直す決断をした、ということは、それなりに重く受け止めているという意味だと思います。
ただ、ほとぼりが冷めたらすぐに復活というのも十分にあり得るので、今回の件はもっと長い目で見るべきかもしれません。
せっかくなので、生き残った「MERY」がどういう媒体で、「NeNAパレット」の構想は何だったのか、ということを書いていきます。
生き残った「MERY」について
「MERY」のサイトですが、今ちょっと見ていたところ、「404」のページがちらほら見られました。
他のパレットを非表示とすると同時に、ほとんどパクって作ったような、問題のあるページを消しているのでしょう。
もともとは「MERY」も非道なやり方で大きくなっていったサイトで……というか、その主犯格です。
例えば、「nofollow」問題というのがありました。これはSEO関連のしょうもない話なので、あまり話題にはなりませんでしたが、酷い話ではあります。
以下は実際に「MERY」のキュレーターをやっていた方が書いたものです。
MERYにサイトアフィリエイターから批判が集中している!何故? – モロットダイス! | 体脂肪、サッカーネタを公開!
検索で上位に表示されるために重要なのは「コンテンツ」と「被リンク」です。
ドメイン(blog.skky.jpなど)には「パワー」という概念があって、まともなサイトからの「被リンク」が多いところほど強くなりやすいです。
Open Site Explorer: Link Research & Backlink Checker | Moz
こういうサイトでドメインの強さを調べることができます。
ウェブにおいて「リンク」は非常に重要な要素ですが、自分のサイトやブログなどにリンクを貼るとき、「nofollwe」という属性をつけることが可能です。
リンクを「nofollow」にすると、「信頼できないコンテンツ」とみなすことを意味します。他サイトから「nofollow」リンクを貰っても「被リンク」扱いになりません。
特定のリンクに対して rel="nofollow" を使用する - Search Console ヘルプ
例えば、「はてなブログのコメント欄」に貼ったリンクは「nofollow」になります。このブログのコメント欄もそうです。
その理由は、ドメインを強くする目的で、色んなブログへ自分のサイトのリンクを貼りまくる行為を無意味にするためです。もともと「nofollow」はそういうふうに使います。
ほとんどのブログのコメント欄に貼られたリンクは「被リンク」扱いになりません。いくらでも自演やスパムが可能なものだからです。
で、MERYは、「キュレーションメディア」として他のサイトから引用してくるわけだけど、そのソース元へのリンクに「nofollow」を付けていました。
「MERY」が引用する他のサイトなりブログは、当然ながら似たようなコンテンツを扱っているわけで、検索順位を競う場合にはライバルになり得るわけです。
その際に、自分のサイトから「被リンク」を与えると、相手が強くなってしまうので不利になります。そのために「nofollow」をつけて、信頼できないものと検索エンジンに認識させるわけです。
剽窃まがいのことをされた上にリンクも付けないで、「でも引用の条件は満たしてるのでルール違反じゃないですよ」と言われたら、オリジナルコンテンツを作っている人達がキレるのも無理はありません。(流石に炎上してから「nofollow」ではなくなっています。)
リンクの属性がどうこうなんてのはセコいしつまらない話ではありますが、「法には反してないけど倫理には反してる」みたいな側面はあったわけです。
そして、「MERY」は「勝ち抜け」しました。
- 検索を狙うワードを決める
- 目指すワードの上位に表示されているコンテンツをキュレーション(?)して記事をつくる
- マンパワーとSEO的な手法で優位に立つ
- 検索ワードの上位を独占していく
- 大勢に見られるようになったらブランド化していく
という一連の流れで、現在の「MERY」は、ブランド化の流れまで行き着いたメディアです。
そして他の「DeNAパレット」も、この「MERY」と同じことをしようという発想で作られました。それが何を意味するのかを、これから解説していきます。
「DeNAパレット」の「勝ち抜け」とは?
DeNAパレットの公式ホームページが見れなくなってますね。YouTubeの動画は現在はまだ見れます!
そのYouTube動画の説明欄にこう書いてあります。
DeNAのキュレーションプラットフォーム拡大構想「DeNAパレット」。
私たちは、2つのものを変えるためにこの構想を立ちあげました。ひとつは、ライフスタイル×エンタメ。
隙間の時間を楽しい時間に変えてきたDeNAとして、豊富な種類の情報で、細切れの時間へ
ふたたび新しい価値を提供していきます。もうひとつは、産業×スマホ。
衣・食・住、旅行、子育てなどのあらゆるジャンルでスマホを持つ生活者が、より行動しやすい便利な仕組みをお届けし、
生活者と企業との関係をよりよくしていきます。あしたの新しい色が、ここから生まれていくために。
DeNAは、この構想に賛同する仲間を積極的にむかえます。
そして、持ち前のスピード感で、明日を変えていくような新しいサービスをつぎつぎと送りだしていきます。あしたを、ぬりかえよう。
DeNAパレット
「産業×スマホ」と「生活者と企業との関係をよりよくしていきます」という文言が含まれているのがポイントだと思います。企業と提携する意図が構想の段階からある。
TCインタビューでは、CEOが「後から監修」は考えが甘かったと認めています。
これから「健全化」が焦点になるみたいなことをインタビュアーが述べていますが、そもそもの話、「DeNAパレット」のようなキュレーションメディアの「健全化」とは何を意味するのでしょうか?
現状の「MERY」は、たしかに優れたオリジナルコンテンツがあります。
ECと提携して、リンクから商品を買うことができるようになっています。画像なども、提携先している企業から貰ったものなら誰も文句を言えないでしょう。企業側からしても自社の商品を買ってもらえるのなら一石二鳥です。
儲かっていれば、タレントや芸能人を呼んでくることもできます。金をかけて面白いコンテンツを作ることもできる。色んな方法でブランドを強化していけます。
こうなってしまえば、「もう普通にいいサービスじゃん!」と思うかもしれません。
しかし、その前提として必要なのが「検索で上位表示される」ことでした。
まずは、どんなやり方でもいいから検索上位を狙って、上位表示される立場を手に入れた後は、企業の商品紹介をコンテンツにしていく、というやり方です。
検索上位がとりやすいことも含む、一定のブランド力さえ手に入れてしまえば、あとはひたすら提携先の企業の商品を紹介するだけでコンテンツになっていく……ようはキュレーションの延長で商品紹介をやっていくわけです。
つまり、パクリキュレーションの「健全化」は、今までは「他人のコンテンツ」がリソースだったのが、「勝ち抜け」た後は提携先の商品がリソースになる、ということを意味しないでしょうか?
安く雇ったライターの働かせ方を急に変えられるわけではない。
これは僕の穿った見方かもしれないので、ここまで読んでくださった方は、「DeNAパレット」が扱おうとしていた対象の一覧や、実際の「MERY」の記事を見て、自分で判断してみてほしいです。
ビジネスとしては非常に強力です。成功すれば、検索と企業を結びつける権限のある程度を握ることができるわけだし、ブランド面も、儲かっていれば後からどうにでもなるでしょう。
もちろん、「大企業がこんなやり方を堂々と事業の柱に据えるってどうなの?」と言われても仕方ないところはあると思います。
非公開になったパレットはどうやって再開するのか?(あるいはしないのか?)
「キュレーションには価値がある」という考えは表向きのもので、それ自体は手段に過ぎないのではないかと思います。企業にとって本当に価値があるのは「商品と提携しやすいメディア」です。
既存のメディアは、ニュースや何らかのトピックを扱って、その傍らに広告を乗せています。
しかし今は、YouTuberやブロガーを見ればわかるように、商品紹介自体がコンテンツになる時代です。
「DeNAパレット」的な構想の行き着く先は、「商品紹介に特化したメディア」で、要するにキュレーションの体をとった大掛かりなアフィリエイトではないでしょうか。
「MERY」や「DeNAパレット」は、「キュレーション」という体で他のコンテンツをパクってそういうことをやっているので非難されていますが、事業としては確実に需要が見込めるものなので、たぶん他の色んな企業が参入しようとしていると思います。
近い将来、多くの個人アフィリエイターが死ぬかもしれません。(別にいいけど。)
今の「MERY」の成功を見る限り、パレットの期待値が相当なものだったことがわかります。(すぐ「iemo」など有望そうなものから復活させていくのでなければ)、9つの非表示はかなり大きな決断だったのではないかと思われます。
問題は、これからどうなるのか……です。
「MERY」は、今やなかなか文句を付けにくいメディアですが、「WELQ」の件を反省して筋を通すのであれば、不当な方法で強くした「mery.jp」のドメインを破棄するか、「MERY」の名前を変更するべきかもしれません。
CEOが謝罪したことは立派だと思います。ただ純粋に疑問なのが、「健全化」なんてものがあり得るのだろうか、ということです。
つまり、当初の方法自体が「叩かれてもいいから突っ走って黒を白にしよう」という考え方だったわけで、そこを問題だったと認めてしまえば後は潰すしかないのでは?という気がしなくもないのです。
というわけで、これから「DeNA」がどうするのかが非常に気になります。
ほとぼりが冷めた頃に言い訳のような「監修」を付けて同じ仕組みで事業再開……みたいなことはやってほしくないですね。
今回の件は、「BuzzFeeD」のようなメディアが与えた影響も大きかったと思います。
これからも興味が集まるトピックだろうし、今後のDeNAが何をしていくのかもしつこく調査してくれることを期待したいです。
追記
DeNAが「MERY」の全記事を非公開にすることを決定しました。
DeNAは、村田マリと中川綾太郎から、「MERY」と「iemo」を50億で買収していて、さらにパレット構想で使った人件費、それに加えて企業としての信用を失ってしまったのかもしれません。球団を持っている大企業とは言え、けっこうダメージは大きいのではないでしょうか。
これは結果論ですが、最初からMERYも含む全パレットを非公開にしていれば、CEOの守安功氏は高い評価を得ていたかもしれないし、WELQだけをすぐに閉鎖して他パレットも巻き込まなければ、どうしても残したかったMERYを守ることができたかもしれません。