コンピューターの世界では、「オープン」がある種の宗教性を帯びたイデオロギーになっていると、カドカワの社長である川上量生は言う。
しかしすでに「オープン」は力を失い始めていて、少なくともここしばらくは、ネットの世界は段々と「クローズド」な方向に進んでいくらしい。

- 作者: 川上量生
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/06/20
- メディア: 新書
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(この記事は、本書6章の「オープンからクローズドへ」を参考にしています。)
「オープン」なプラットフォームとして僕たちがイメージする最大のものが、「ワールド・ワイド・ウェブ」だろう。これまでのインターネットは、ウェブというプラットフォーム、ウェブという思想の上に展開されてきた。
しかし今は「オープン」よりも「クローズド」なプラットフォームへ人が集まるようになっていて、その転換点がFacebookとiPhoneだったと川上量生は述べる。
Facebookの中はグーグルから検索できないようになっていて、また検索エンジンからのトラフィックにも依存していない。サービスを中に抱え込んで、ユーザーがやりたいことはFacebookの中ですべて済む作りになっているし、例えばアメリカのソーシャルゲームはFacebookが公開したプラットフォームの中で発展してきた。(現在はiPhoneにその場所を奪われているが。)
iPhone
iPhoneという端末は、「ウェブブラウザ」を数あるアプリの一つくらいの地位に下げてしまった。PC(ウェブ)文化とスマホ(アプリ)文化の違うところは、ウェブサービスやウェブログは誰でも参入しやすいが、アプリは誰もが自由に作れて配布できるわけではないということだ。「AppStore」でアプリをリリースするためには、本部の恣意的な審査を通過しなければならない。アップルは、プラットフォームを握った優位性を手放さなず、クローズドな戦略を採用している。(もちろん、オープンやクローズドというのは相対的な概念ではあるのだが。)
ビジネスとして考えた場合の「オープン」戦略は、自分が抱え込んでいる権利や情報を開放して、自分以外のプレイヤーの参入を促すことだ。
例えば、「アップルⅡ」を世に出したアップルに対抗して、IBMはオープン戦略を採用した。「IBM Personal Computer」のアーキテクチャを公開し、他の企業がPC互換機をつくることを容認したのだ。結果、IBMのPCのほうがアップルよりもたくさん売れてソフトも充実することになった。
しかし競争が苛烈して、PCメーカーというビジネス自体が儲からないものになってしまい、IBMはPCを売ってそれほど儲けることはできなかった。アップルには勝ったかもしれないが、戦果に見合うものは手に入れられなかった。
だが、PC用のCPUを作っているインテルと、OSを作っているマイクロソフトはめちゃくちゃに儲かった。なぜなら、それぞれがCPU、OSという立場で独占的な地位にあったからだ。
基本的に独占は儲かる。当たり前の話だ。企業としては、他社が担当する分野では「オープン」な参入や競争が盛んに行われていて、自分は「クローズド」な独占状態にあることが、一番おいしい。
にも関わらず、インターネットの世界にはオープン神話とも呼べる神話がずっと残っていると川上量生は述べる。もちろんLinuxなどの影響も大きいのだろうが、少なくともビジネスをする主体の立場から見れば、「オープン」であるよりも「クローズド」であったほうが有利だ。
黎明期のインターネットには、現実社会とは別の世界としての、開放感とマニアックさが両立しえた稀有な文化があったことは確かだと思う。そこに愛着を持つ人が多いのは無理のないことだ。
しかしこれからは、ネットは段々と「クローズド」な方向に向かっていく。フェイスブックもアップルも、下手したらグーグルでさえも、企業としてやっている以上は、自分たちのクローズドな領域を強化したいと思っているだろう。
そして、現実からネットにたどり着いた人たちではなく、最初からネットがあったネットネイティブは、インターネットという技術が持っていた開放性のようなものには、あまり興味を示さないのかもしれない。
川上量生の考えは、ブログ界隈にも適用できると思う。一気にしょうもないスケールの話になってしまうのだけど。
ブログは基本的にオープンな文化の産物だろうし、SEOといったグーグル検索を重視するブログも多い。
ただ最近は、どんどん人気ブロガーの戦略が、「クローズド」を手に入れる方向に進んでいる気がする。
イケダハヤトやはあちゅうを、最近あまり見かけないとか、はてブに上がってこないとかTwitterで流れてこないという理由でオワコンとみなす人は多いけど、たぶん彼らは大勢の注目を浴びていた時期よりも現在のほうがずっと収益は多いだろう。
有料ブロマガとかnoteとかサロンとか、熱心なファンから収益を回収できるシステムが用意されつつあるからだ。
理想や承認欲求を求めるなら、できるだけバズって多くの人に見られるのがいいのだろう。しかしビジネスとして考えるなら、むやみやたらに大勢に見られても広告費なんて無いようなもので、「クローズド」なところでちょっと成功したほうがずっとおいしい。
そういう観点から見れば、イケハヤとかその系列の人は今もうまくやっていると思う。
もちろん、みんながお金儲けやビジネスのためにブログをやっているわけではないのだけど。
最後に、ブログはオワコンなのかという話をするなら、個人的にそうは思わない。動画に比べれば影響力が小さいというだけだ。
ネットと言えばホームページかウェブログ、みたいな時代には、そもそもネットをやる人自体が少なかった。ネットネイティブのほとんどが動画を好んで、ブログに来るのは少数派だとしても、ブログを見たり書いたりする人の絶対数が激減するわけではないと僕は思っている。