最近は日本人スゲー本が出版されすぎだと話題になっている。90年代は欧米を過剰に持ち上げて日本人を貶む本が良く売れていたらしいけど、まあオレツエー本が人気になったらそろそろ本格的にヤバいな、という気がするよね。
日本人が日本人について語りたがって読みたがるのは当然と言えば当然。過去にも色々な日本人論が語られてきた。もちろん、日本人に何かしらの特徴があるということを実証するのはほぼ無理で、みんなそれぞれ適当なことを言うのだけれど、まあそんなもんだよね。あらためて今までどんなことが語られてきたのか振り返ってみると面白い。

- 作者: 南博
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1980/11
- メディア: 新書
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本居宣長、もののあわれ
日本人の美意識を正面から捉えた考え方が、本居宣長の「物のあわれ」だ。宣長は江戸時代の国学者、文献学者で、『古事記』や『源氏物語』などを研究していた。
日本人の美意識にとって重要なのが自然そのものの姿に感動することで、自然の月や花を見て「はれより月かな」「ああみごとな花ぢや」と感嘆するのが、物のあわれを知るということになる。
当時宣長は中国と対比する形で日本を語り、「物のあわれを知る心」は人間の本性なのだが、中国ではそれが浅はかな知識と判断によって覆われていったとみなしている。一方で、日本の『源氏物語』には、物のあわれの美意識が純粋に見られると主張した。江戸時代という制約もあり、比較対象が中国なんだね。

- 作者: 小林秀雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1992/05/29
- メディア: 文庫
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福沢諭吉、人間交際
明治初期に多く見られた日本人論として、西洋先進国との比較で日本人劣等論が叫ばれがちだったのだが、西洋の事情に詳しかった福沢諭吉は、過剰な劣等論にも日本人優越論にも陥らず客観的な日本人論を展開した。
福沢は、人間交際という概念を重視する。福沢の考えによれば、文明は人間交際から生まれ、人間交際において一方的に権力を持つ者がいる場合はその権力を制限しなければならない。それを考えると、日本人の服従心が強く、権力や政治を自然の天候のようなものと諦めてそれに従ってしまう。だからこそ福沢は「天は人の上に人を造らず」と説き、「独立ノ精神」を促した。

- 作者: 福澤諭吉,斎藤孝
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/02/09
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九鬼周造、「いき」の構造
九鬼周造は『「いき」の構造』で、いきを「あか抜けして張のある色っぽさ」と定義した。いきは日本人がずっと抱いていた美意識であり、日本語の「いき」に該当する外国語は見当たらないと九鬼は見る。
九鬼は優れた哲学者だが、戦前の激しい時局に流され、いきの概念を日本的性格を表すものとして理論づけ、国家主義の神話にまで結びつけてしまった。

- 作者: 九鬼周造
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/09/17
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和辻哲郎、日本の風土
和辻哲郎は「風土」から日本を考えた。これは、例えば寒い地域にいる人々と暑い地域にいる人々、パンやソーセージを食べる人々と米や魚を食べる人々とでは、考え方が違ってくるのではないかということだ。だから、機会的にマルクス主義などを起用しても、日本の社会の問題は解明できないと和辻は考えた。
和辻は単に風土が人間を規定するのではなく、風土を自らの内面に含む人間が作り出す歴史を問題にする。その考え方には優れたものも多いが、実際に和辻の論を検証すると矛盾や間違いも多い。

- 作者: 熊野純彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/09/18
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タテ社会としての日本
日本の経済学者やら社会学者やらによく言われてきたのが、西洋がヨコ社会なのに対して日本はタテ社会だということだ。日本は先輩、後輩の上下関係が厳しく、本来職業ごとに繋がるはず労働組合も会社ごとにあり、終身雇用、年功序列で年齢が重視される。それと対比して、西洋は序列意識で横に広い繋がりを持ったヨコ社会だと言う。
これはこれで言い当てている部分がなくもないのかもしれないが、このような大まかな括りには反例が山ほど見つかる。また、そこで言われていることはあくまで高度成長期の一部の「日本人」に過ぎないのではないかという批判も強い。

- 作者: 中根千枝
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1967/02/16
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ルース・ベネディクト、恥の文化と罪の文化
ルース・ベネディクトの『菊と刀』という有名な本があるが、これはアメリカが戦後の日本を統治するために書かれた日本人の研究書だ。ベネディクトは、西洋の罪の文化と対比して、日本を恥の文化と規定した。この考えには後の多くの日本人論が影響を受けている。
一方で柳田国男は、「日本人の大多数の者ほど『罪』という言葉を朝夕口にして居た民族は、西洋の基督教国にもすくなかつたらう」と述べ、「罪」は日本にも深く浸透していたと反論する。「親を睨めばヒラメになる」「食べてすぐ寝ると牛になる」など、前世や後世の罪を強調する仏教的な諺も広く浸透していた。そして同じ罪の意識にしても、西洋の罪悪感はキリスト教的な原罪思想から来て、日本の罪は「けがれ」として意識される。

- 作者: ルース・ベネディクト,長谷川松治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/05/11
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このように、昔の人も様々な形で「日本人」を語ってきた。
僕はよく知らないが、「はてな」という気持ち悪いサービスがあるらしく、そこで色々と議論をしたがる人たちがいるのだけれど、彼らの好きな言葉に「主語が大きい」というものがある。
はてなで「日本人」を語ると、すかさず「しゅごくおっきいひいいいいいいい〜♡」という罵声が浴びせられるらしい。「日本人」と言っても、時代、世代、性別、地域、階層などによって、様々な日本人がいるからだ。
「日本人」を語るという試みは、面白くはあるけれども、あくまでエッセイの類であって学問にはなりえず、日本人は◯◯だ!という言説には眉に唾をつけて接するというのが今日の常識的な態度になりつつある。
何かと語るときにはそれなりの注意と配慮が必要というのは、至極真っ当なことではあるのだけれど、面倒くさいと言えば面倒くさい。