RPG(ロール・プレイング・ゲーム)という言葉は、日本で遊ばれているRPGの実態を正確に表しているわけではなく、便宜的に使っているに過ぎない。みんな気付いているように、ずっと前から、というより最初から、日本のRPGは「ロールプレイング」ではなかった。
「模倣」ではなく「抽象」。日本のRPGは、「役割を演じる」ゲームにはなりえない。「再現」から切り離された「数値としての強さ」が、概念として先鋭化されていく。強さは見た目には現れずに内側に潜み、見た目と関係がないからこそ、いくらでも強くなることができる。
普通、人間はなかなかそのような考え方をしない。手塚治虫の「鉄腕アトム」が、小さい身体で巨大なロボットを倒せるということが、米国ではなかなか受け入れられなかった。洋ゲーに出てくるマッチョなおじさんに比べ、多くの日本のキャラクターは細いし小さい。能力が見たままに現れるわけではなく、「強さ」は抽象化されている。

- 作者: アンアリスン,Anne Allison,実川元子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/08
- メディア: 単行本
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何かを模倣、再現するために数値を使うのではなく、ただ、その数値自体が、概念的な強さとして上昇していく世界観。これは多くの和製RPGに特徴的なものだ。また、強くなるためには、モンスターを倒して経験値を稼ぐというような、「ぬるま湯に浸かっているような努力」が必要になる。多くの場合、プレイヤーがやっているのは「ただボタンを押している」ことに近い。
ボタンを押す、などの「努力」と引き換えに、概念的な「強さ」としての数値が上昇していく世界観、これが多くの和製RPGのベースになっている。ソーシャルゲームのフォーマットを考えてみても、ゲームに何らかの目的があるわけではなく、ひたすら敵を倒してランクを上げパーティーを強くしていくという点で、もれなくJRPGの系譜を引いている。
実態と数値は切り離されている。そして、目に見えるものとも模倣するべきものとも切り離されていからこそ、様々なRPGとしての表現が可能になった。数値が抽象化されることで生み出されてきたRPGの多様な世界観は、疑いようもなく日本のゲームの大きな財産だ。
そして、「模倣」ではないからこそ、自由に付け足したり上乗せしたり、コラボすることができる。少し数値をいじっただけで、違ったものや新しいものを作り出せる。
RPGには、同じ高さに並んだ「データベース」が不可欠であり、それがあるから選択と戦略が生まれる。「消費者が買い支えることで成り立ってきた日本のコンテンツ産業」で述べたことだが、「同じ高さ」に並んでいることが、日本のゲームや漫画やアニメにおいて非常に重要だった。もちろん強さや特徴はそれぞれ差があるけれど、同じ「モンスター」や、同じ「キャラクター」として括ることで、継ぎ足しやコラボが容易にできるJRPGの様式ができあがっていった。
ゲームにおいて、その最も広く知られている例が、「ポケットモンスター」だろう。ポケモンは、現在盛り上がっているソーシャルゲームの原型でもある。
田尻智は、自然を「模倣」することによってポケモンを生み出した。だが、その前提にあったのは、糸井重里が手がけたMOTHERシリーズであり、さらにその前にはドラゴンクエストがある。
「模倣」を前提にしていたものを、「抽象」することで日本のRPGが生まれた。そして、そのフィルターを通して自然を「模倣」しなおしたことで、ポケモンというゲームが作られた。和製RPGの原型はポケモンにおいて完成したと言ってもいいだろう。
抽象でありながら模倣でもある、そのような想像力が生み出されたという点で、ポケモンは決定的な意味を持つゲームであり、いまだにそうあり続けている。

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