アニメや漫画やゲームなんて、もともとお勉強や経済成長の邪魔になる要因くらいにしか考えられてなかったのに、最近は工業製品の輸出が見込めなくなってきて政府もクールジャパンなどと言って日本のコンテンツを積極的に支援しようとしている。
二次産業に成長の限界が見えてきて、知的経済への転換をはかる流れでコンテンツなどの娯楽産業に注目があつまるのは先進国に共通する傾向らしいけどね。
「ソフトパワー」という考え方がある。その国の持つ「魅力」によって、経済とか外交とか国防とかに良い効果がもたらされるというもの。日本のことが好きな人が増えれば色んな場面で日本という国が得をする。
ハードパワーというのが軍事力や経済力のことで、数字や形ではっきりわからないような魅力をソフトパワーと言う。そのソフトパワーをうまく機能させるためにも、自国のコンテンツの人気が出るように政策をうつのは合理的という話。

- 作者: ジョセフ・S・ナイ,山岡洋一
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/09/14
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 16回
- この商品を含むブログ (29件) を見る
クールジャパン政策は別にコンテンツのことだけではなく、衣食住や観光も含めた総合的なことなのだが、コンテンツ政策に関しては、経産省の「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」にわかりやすく書かれている。
コンテンツの海外展開を支援して日本ブームを起こし、現地で稼ぐためのプラットフォームをつくり、そこで日本に魅力を感じた観光客を呼び込む、みたいなのがクールジャパン戦略の大枠。
クールジャパン政策の是非を論じる上で、まず踏まえるべきことは、日本のクリエイターや消費者は政府とか権威みたいなものが大嫌いだということ。みんなも嫌いでしょ?
「消費者が買い支えることで成り立ってきた日本のコンテンツ産業」で述べたように、日本のコンテンツ産業は、各コンテンツが同じ高さにあることで消費者が作家を買い支える文化を育んできたし、同人誌やコミケなど、作家と買い手が同じ高さにいたことで、二次創作を含めた作家とその消費者の層の厚さという土壌ができていた。
政府のプロモート、ローカライズなどの支援というのは、上と下をつくってしまう「権威」で、決められた枠組みに従ったもの、認められたものが得をするという仕組みだ。
ハリウッド型の産業は、プロになるためのレギュレーションが非常にしっかりしていて、ピックアップするような政策とそれほど接触がない。それに大規模な映画産業は作品数が少なく、海賊版対策をやって各国にローカライズするというやり方もそれなりに効果を持つ。
日本が参考にしているのはハリウッドや韓流ブームで話題になった韓国だ。日本で韓流はもう終わったが、まだアジア圏ではそれなりに流行しているらしい。
韓国というのもレギュレーションが厳しい国で、俳優や芸能人は高学歴だし、権威に働きかけたり国が一丸となって方向性を定めるのは得意だ。ただ、韓国は韓国なりの非常にシビアな事情があるので、日本が真似するようなものではないだろう。
コンテンツを支援しようとするとき、プロモート、ローカライズ、海賊版対策を政府が掲げているが、そもそも漫画、アニメという日本のコンテンツは作品数が膨大なので、どれを選ぶのか、という時点で、お国の権威と利権がかかわってくる。
日本のクリエイターや消費者は文化的なレベルで政府を軽蔑しているので、どの作品をどういう基準で選ぶのかという同意はとりにくいだろう。
また、それぞれの作品が同じ高さにあることで、消費者が作品を支える文化が育まれてきたのに、政府が権威を持ってして特定の作品をピックアップすることは、その土壌を破壊してしまう方向に作用する可能性が高い。もちろん政府が何かやったくらいでどうなるというものでもないだろうが、金の無駄ではあるだろう。
ただし、個別の作品に支援するのではなく、プラットフォームに対する支援なら、それなりに正統性があると思う。国家じゃないとできないこともあるからだ。
例えば、どっかの国が現地で日本のイベントをやろうとする場合、日本政府が費用や人材を補助します、みたいなやり方なら、あんまりお金を無駄にせずに済むんじゃないかな。
コンテンツ産業にまつわる難しい問題の一つに、海賊版がある。
例えば、日本のコンテンツ輸出額はゲームが圧倒的なんだけど、ゲームは違法コピーがしにくい。家庭用ゲームはそもそもハードが物理的なものだし、テキスト、画像、音楽、動画データと違って、ゲームは内部のプログラミングも含み、アップデートも頻繁に行われるので、最近のものになるほど海賊版がつくりにくい。
日本のコンテンツ政策が漫画やアニメに着目しているのも、それらが違法に視聴されているからだろう。現在どのアニメがどれくらい違法視聴されているかは正確に把握するのが難しい。
ただ、日本のアニメが世界中に広まったのには、海賊版が確実に一役買っている。特に「放送」では流せないようなメジャーから一歩引いたアニメが世界中で見られているのは、違法視聴なくしてはできなかったことだ。海賊版業者は、アニメの間に広告を流して儲けることをモチベーションとして、自国の字幕をつけてアニメを流している。
理想は、正規のプラットフォームを公式が用意して、海外の視聴者をそこに誘致し、海外進出したい日本の企業などの広告を流し、アニメの製作側にお金が入るようにすることだろう。ただ、動画プラットフォームをつくるのは楽じゃない。
「Manga-Anime here」みたいなものを作ってしまうのが政府クオリティ。酷いところはいろいろあるが、一番酷いのは、世界中に日本の文化を広めると言っておきながら英語と日本語しか用意されていないこと。他の言語圏のアニメファンはどうすればいいのだろう?そしてヘッダーに大きく書かれているのが「STOP!海賊版」なのだから、お国の仕事というのはそういうものだと言われても仕方がない。
海外の人からすれば、海賊版でしか見ることのできないアニメは多い。というより、日本国内でもそういうことがある。代替手段がない状況で海賊版を規制すれば、むしろ政府の本来の趣旨である「ソフトパワー」を減らしてしまうことにもなるだろう。
90年代の日本のアニメは海外からしても安く、国際競争力があったし、2005,6年くらいまでは売れていたんだけど、それは「放送」の時代だったからこそ売ることができた。現在は、わりとマニアックなアニメも海外勢に見られていて、「通信」により需要の集約化が起こったからだと考えたほうがいい。
そもそも、海賊版の撲滅とかまずできないだろうし、仮にやったとしてもそのためにかけた労力に値するほどのメリットはないだろう。
海外のやつらはアニメを無料で見てるのに、現場のアニメーターの待遇は悪くて、そういうのはけしからん!という気持ちはわかるけど、収益を回収する手段がないのなら、海外でアニメを見られようが見られまいが制作者にお金はいかない。また、すでに「通信」というインフラが出来上がっているのに「放送」という形で売りだそうとするのは、途上国はともかく先進国では絶対に無理。
日本のコンテンツはもともと少数のファンがついてくれればいいという種類のものだったので、海外にも愛好家はいるんだし、違法視聴で見られているという事実を全面に押し出して、かつ違法視聴は禁止せずに「日本のアニメーターは過酷な待遇で苦しんでいます。日本のアニメを守るためにも海外の違法視聴者は好きなアニメのグッズなどを買って支援してください」というキャンペーンを打ち出したほうが、まだ製作側にいくお金は増えると思う。
しかし、そういう発想は利権を確保しようとする政府のあり方とは馴染まない種類のものだ。
あと、プラットフォームへの支援という文脈で考えられるのは、ニコニコ動画。ニコ動でアニメ見るのは楽しい。GoogleのYouTubeが台頭してきた中で、貴重な国内の動画プラットフォームであることは間違いないだろう。
最近のニコニコは権力にすり寄ろうとしているような気がするが、それはそれで理にかなったことではある。国策としてコンテンツを打ち出していくなら、プラットフォームであるニコニコ動画への投資は、個別の作品を支援しようとするよりも正統性が高いだろう。ただ、それは今までのユーザーを裏切る形になる可能性も否定できない。今のニコ動って悪い意味で胡散臭いよね。僕はニコ動が好きだけど、動画上の広告に週刊現代とか変なやつらのメルマガとか、ちょっと擁護しづらい感じにはなってきている。
経産省の考えでは、少子化、高齢化で国内の需要は先細りしていくから、競争力のあるコンテンツ産業で勝負しようぜ、ということなのだろうけど、個人的にそれはちょっと違うな、と思ってしまう。もともと日本のコンテンツって、政府からは規制されるような対象だったのではないか。
当時はそんな夢を見ていたわけじゃなかったし、これからも妙な幻想を抱くべきではないだろう。たとえ手元にあるものが周囲やお偉いさんやグローバルスタンダードから眉をしかめられるものであったとしても、今を楽しもうとすること以外の変な打算はなかったはずだよ。