アメリカと日本はコンテンツ産業の市場規模が1位と2位で、コンテンツ大国と言われている。お互い国際競争力のある産業を持っているが、その特徴は対照的だ。
アメリカで国際競争力があるのは、ハリウッド映画。
日本で国際競争力があるのは、マンガ、アニメ、ライトノベル。
この二つの顕著な違いは、1作品あたりの製作コストだ。
特殊効果など最先端の技術や大規模な宣伝を必要とするハリウッド映画は、製作コストがとても高い。一方で、マンガは個人や数人で描くことができるし、アニメはそれなりに人員が必要だがそれでもハリウッドには及ばない。
この製作コストの違いは、産業構造に決定的な違いをもたらす。
日米のコンテンツ産業は規模が違う。
商用作品を作ったなら、そのためにかけた費用を回収しなければならない。逆に言えば、製作費用を回収できるだけ売れる見込みがなければ作品をつくれない。
ハリウッドは、世界中に売れるからこそ大規模な作品をつくれるし、ハリウッドとして成り立つためには世界中に売らなければならない。世界中に売るためには、大多数の視聴者の共通項を探るような、10人見たら7、8人が面白いと思うような作品を作る必要がある。
マンガの場合、紙とペンがあれば一人でも作品を作れるから、投資は非常に安上がりだ。低コスト産業なので、ほんの少数の消費者に買ってもらえばそれでやっていける。だから、10人のうち9人に嫌われても、1人にとことん気に入ってもらえる作品を作ることが可能だった。
プロフェッショナル主義のハリウッド
映画にしろマンガにしろ、それを流通させるプラットフォーム無しには語れない。
ハリウッドは、シアターという仕組みと大規模な宣伝を使って、作品をつくればある程度は売れる仕組みを整えた。ハリウッドの新作映画なら確実に多くの人が見にくる。
ハリウッドは製作会社ではなく、流通と宣伝を支配するプラットフォームだ。映画を流通させることのできる権威が頂点にあり、監督、シナリオ(原作)、役者、技術者はプロジェクトごとに集めたり、外注できる要素でしかない。
ハリウッドで製作に携わるためにはたくさんの審査を通過しなければならず、クリエイターはその枠に入るために競争する。ハリウッド映画に出るという時点ですごいことでしょ?
(画像は映画「インセプション」から)
つまり、成功が約束された場所を用意して、一流の才能を集めるのがハリウッドの仕組みだ。徹底的なプロフェッショナル主義で、世界中から優秀な人材がハリウッドに集まってくる。
製作に関して言えば、絶対に大きな失敗はできない。文化や宗教的な問題に配慮しなければならないし、極端に斬新だったり刺激的だったりするシーンも難しい。
チャレンジがしにくいので、確実に売れるであろうシリーズの続編や有名監督の作品が多くなる。
誰でも参加しやすい日本のコンテンツ産業
マンガ、アニメ、ライトノベルのような産業は一つ一つの規模が小さく、ハリウッドのようにプラットフォームが支配されていないので参入のハードルが低い。また、それら中小規模の産業が集まって、「産業群」として発展してきた。もちろん大多数に受ける突出した作品もあるが、それは支配的なものではない。
群としての厚みがあるからこそ、10人中1人に受けるマニアックな作品が成り立つ。消費者は多様な作品群の中から自分の好きな作品を探すことができるし、作家のほうも、自分の作品を気に入ってくれる10人のうちの1人をあてにした作品をつくることができる。このような作品群と、それを享受する人達の厚みが、多様性のある日本型産業を作り上げていった。
個人で作品をつくることができ、もともと文化的タブーも少ない国なので、奇抜だったり暴力的だったり変態的だったりする表現が可能だった。もともと海外に売り出す必要もプレッシャーもなかったから、自由に作品をつくることができた。
例えば、子供向け作品である「ドラえもん」で、しずかちゃんの入浴シーンやパンツが見えたりすることがあるが、日本以外の国ではタブーだったりする。もともと国内の需要だけで成り立つガラパゴス産業だったからこそ、そういう制限を意識しないでもよかった。
また、日本は同人やパロディが盛んで、オリジナルを描く気がない人でも、二次創作やコスプレなどの形で作品に参加できる。そのため、誰もが創作に関わりやすい文化がつくられてきた。これも日本型産業の財産である。
ハリウッドはプロフェッショナル主義なので、製作に関われる人はトップの一握りで、スタッフは高学歴が多い。映画学校など、クリエイティブな業界でも、そこに入るためのレギュレーションがしっかりしている。
日本のクリエイターは学校や権威が大嫌いな人が多く、作品を発表するのに学歴は関係ないという意識は共有されているけど、海外ではクリエイティブ産業も高学歴が牛耳っていたりするからね。
まとめると
ハリウッド
- 1作品あたりの製作コストが高く、作品数が少ない。
- 製作に関われるのは厳しい審査を通過した一握りの、徹底的なプロフェッショナル主義。
- 海外市場を狙い、広いターゲットに向けて誰もが楽しめる作品をつくる。
日本型産業
- 1作品あたりの製作コストが低く、作品数が多い。
- 同人文化や二次創作など、「創作しやすい文化」も含めた多様性のある産業群。
- 一部のマニアックな市場を狙った作品をつくることができる。
ちなみに、ゲーム産業の場合、製作費が安かった時代にはマンガやアニメやライトノベルと同列の関係にあり、多様なゲームが発明されたが、ハードのスペック向上により製作コストが上昇すると、ハリウッドのようなプロフェッショナル型となじみやすくなった。和ゲーが凋落して洋ゲーが台頭してきた理由にはそういうところもあるだろう。
プロフェッショナルか全員参加か
ハリウッド型、日本型というのは便宜的に言っているに過ぎず、必ずしもその特徴が日本やアメリカという国に付随しているわけではない。米国ではインディーズの映画もたくさん作られているし、もちろん個人や少人数での創作活動もたくさんおこなわれている。日本にもプロフェッショナルはいる。
だから、これはハリウッド、日本型というより、「プロフェッショナル型」、「全員参加型」と言い換えたほうがいいかもしれない。国際競争力を持っている両極が日本とアメリカだというだけだ。
全員参加型の特徴が強い日本のコンテンツは、おそらくは二次創作やコスプレなど、ユーザーが参加しやすい文化やそういう空気も含めて、世界中に注目されているのだろう。だから国際競争力という言葉を使うべきでもないのかもしれない。
これからは、個人でも情報を発信できる手段が充実してきたので、全員参加型のコンテンツが勢いを増していく可能性が高い。ただ、日本はそういう文化が先行している部分はあるにしろ、別に日本だけの特権というわけではないのだし、そういう自由な空気を帯びたものを専売特許として主張したり売りだそうとするべきではないだろう。

- 作者: 出口弘,田中秀幸,小山友介
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