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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

命の値段はいくらなのか?

本の感想 社会

 命の値段はいくらなのか?胃がんなら平均で96万円、心筋梗塞は206万円で、もしバイパス手術が必要なら300万から400万。最先端の医療手術が必要な病気の場合、その値段は天上知らずだ。

 日本には医療保険制度があるので、実際そのような高額を払う必要はないのだが、日本以外の国には医療を受けられない人が大勢いる。

「命の値段」はいくらなのか?

「命の値段」はいくらなのか? "国民皆保険"崩壊で変わる医療 (角川oneテーマ21)

 著者によると、「人の命は地球よりも重い」というのは、すべての医学部生が入学した後に学ぶ考えであるそうだ。人命は尊く、値段には代えられない。このような価値観のもとで国民皆保険制度が造られ維持されてきた。

 しかし制度というものは、それを使う人たちの節度と信頼のもとに成り立つものである。日本の医療制度は崩壊の危機に晒されている。


シビアな医療制度

 アメリカなんかでは、全人口の約6分の1にあたる5000万人弱が医療保険のない無保険者であり、病気になっても医療を受けられないか、何百万もする医療費を自分で支払わなければならない。

 イギリスは、日本と違って医療費を急激に減らしている国だ。ブレア政権にて設立されたNICE(英国国立医療技術評価機構)という組織は、医療技術についての費用対効果のラインを明確に規定しようとし、「合理的」に考えてお金のない人は高額の医療を受けさせない、ということも選択肢として想定する。金のない人が高度な医療を受けることができなくても仕方ないという考え方だ。


 日本でも、その種の議論が厚労省の中央社会保険医療協議会などで少しずつではあるが行われるようになってきている。圧力となっているのは財政の悪化とTPPだ。

 人の命に関する問題を合理的に考えることは「日本人の苦手とする課題」だと著者は言う。確かに、必要に迫られない限りこの種の問題について積極的に考えたいと思う人はあまりいないだろう。しかし、「死」というものを見つめなければならない時期は必ず来る。


医療費の増加

 高度な医療の技術進歩は良いことでもあるが、最先端の医療技術は法外に高い値段がする。また、技術の発展と共に、手術時に患者にかかる負担が最低限になる「低浸襲手術」が発展し、これもまた喜ばしいことだが、手が込んでいるだけに医療費がかかる。

 昔は技術が発展していなかったので「高浸襲」の手術しか選択肢がなかったが、そのぶん安上がりでもあった。命が関わってくることだけに、お金を出し惜しみする人は多くない。ましてや日本では医療費をほとんどを税金で賄っているので、どんどん財政赤字が膨らんでいく。


どこまで医療に頼るべきなのか?

 医療は専門性が高く、人間の健康という膨大な変数が関わってくる分野だけに、さまざまな議論や迷信がある。

 例えばインフルエンザの薬として処方される「タミフル」は、服用者がマンションから飛び降りて死亡した事件が相次いだことから、副作用の強い危険な薬として認知されるようになってきた。タミフルはインフルエンザの特効薬とされているが、薬効は病状の軽減で、体調が酷くなる前に飲まなければ効果が薄い。現状、世界中のタミフルの7割が日本で消費されているのが、そこまで効果的なものなのかは疑わしい。


 また、『どうせ死ぬなら「がん」がいい』という本が話題になったが、内容は、高齢者のがんは手出しをしなければ痛まず穏やかに死ぬことができ、無理に先端医療を使ってお金をかけたり苦しい思いをする必要はないのではないかという議論だ。

 これも難しい問題だが、何がなんでも出来うる限りの手段を使って命を助けようとする、という考え方から、「積極的に治療しない」という選択が生まれてきていることは確かだ。

どうせ死ぬなら「がん」がいい (宝島社新書)

どうせ死ぬなら「がん」がいい (宝島社新書)


医療制度の崩壊

 日本では医師を「聖職」とみなし、医療職が効率を考えることは望ましくないと考えるのが主流だった。国民が金銭を意識しないで医師を受診できる仕組みは素晴らしいが、モラルハザードによって制度が崩壊する危険性も高い。

 「老人病院のサロン化」という言葉があるが、患者の支払う医療費の安い療養病床中心の病院は、サロン代わりに毎日病院に通院している高齢者がいたりする。

 また、総務省消防庁の調査によると、救急車で救急搬送される患者のうち、5割が軽傷で、入院に至るのは5~10%だと言う。緊急性がないのに24時間診てもらえるからという理由でそれを利用する人が後をたたず、本当の重病患者にしわ寄せが来るという事態が起こっている。アメリカの場合は救急車を呼ぶとお金がかかるのだが、日本では無料だ。

 このように、お金がかからないからこそ、むやみにそれが使われて、本当に必要な人が使えないという事態も発生してしまう。


今後の医療問題をどう考えるか

 急速な高齢化や高度な医療技術の保険適用によって、日本の医療費は年間1兆円を上回るほどのスピードで増加している。


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(厚労省:国民医療費・対国内総生産及び対国民所得比率の年次推移


 そのため、財政赤字は日々積み上がっていく。そこに使う費用のほんの数パーセントでも育児支援や教育あててくれれば…と若年世代は思うだろうが、色んな事情があって難しい。

 個人レベルではともかく、世代で見ると明らかに若者に負担が集中していて、これからその度合はますます酷くなっていくだろう。ただ、これは「仕方ない」が積み重なっていった結果であって、誰が悪いという問題ではない。何らかの形で医療費の削減は必要だろうが、それは暴力的な形ではなく、できるだけポジティブなものであって欲しいし、そのための仕組みと意識を作っていくべきだろう。



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