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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

宇宙論と素粒子物理学の前線で何が研究されているのか?

概要
  • 青野由利「宇宙はこう考えられている」を読んだ。
  • とても良い本でした。ざっと要約します。
  • 2012年に発見されて話題になった「ヒッグス粒子」は、何が衝撃的だったのか?
  • 宇宙はどのように始まったのか、宇宙は何でできているのか、宇宙はこの先どうなるのか?



 ここ20年ほどで、宇宙論と素粒子物理学は飛躍的に発展してきたらしい。その背景には観測装置や実験装置の性能アップがある。しかし、まだ宇宙はわからないことだらけだ。


 物理学と言っても、数式を解いていけば自然に答えがでるわけでも、安心してあらゆる現象を説明できるわけでもない。まず観察から始まり、手探りで理論を組み立て、実験でそれを実証しようとし、予想と違う観測結果が出れば理論を考えなおす。先人たちの業績の積み重ねの上で、実験と観測と理論構築を繰り返しながら、今の物理学の体系ができあがっていった。

 今の物理学の理論は本当にうまくできていて、僕達の身の回りのことをほとんど完璧に説明できる。しかし、宇宙には今の科学では説明できない物質やエネルギーが溢れている


 本書は宇宙の「解説書」ではない。前線にいる物理学者達がどういう手段で宇宙や素粒子を研究し、今どこまでのことがわかっていて、これから何をしようとしているのか。それを、科学記者の経歴を持つ著者が一般人にもわかる程度に噛み砕いて書いた本。めちゃくちゃ面白かった!



 本書は内容が詰まった本なので、かなり雑になるんだけど、ざっと要約していきたい。



ヒッグス粒子とは何か?

 ヒッグス粒子は、2013年にノーベル賞を受賞したピーター・ヒッグス博士が予言していた素粒子で、国際的な研究施設CERN(セルン)によって2012年にほぼ有意と言える形で発見された。これはめちゃくちゃ衝撃的な出来事なんだけど、それを説明するためには少し前置きがいる。


物理学者の目標とは?

 物理学者に物理学の最終的な目標を聞くと、宇宙のあらゆることをたった一つの理論で説明できる「統一理論」を完成させることだ、と答えるらしい。

 現在最も完成されている理論は、素粒子の「標準理論」と呼ばれている。「標準理論」は、素粒子(物質を構成する最小の単位)と素粒子同士の間に働く力、さらにその力を伝達する力を考え、それで身の回りに起こるあらゆる現象を説明する理論だ。

 「標準理論」は、ほとんどあらゆることを、矛盾なく、うまく説明することができる。しかしあくまで理論なので、実験でそれを証明することが必要だ。標準理論で予言されたほとんどの素粒子は発見されていたんだけど、「ヒッグス粒子」だけは今まで(2012年まで)発見されていなかった。2012年に、今僕達が使っている標準理論の最後のピースが見つかったことになる。また標準理論の最後のピースというだけではなく、ヒッグス粒子自体がかなり重要な役割を担っている


標準理論のために考えだされたヒッグス粒子

 ヒッグス粒子は、ある意味で標準理論のために無理矢理考えだされたと言える。ビックバンが起こったとき、すべての粒子は光速で飛び回っていたと考えられている。しかし、質量があるものは光速で飛び回ることができない。(光には質量がない)そこに矛盾が生まれる。宇宙誕生時に素粒子には質量がなかったのに、現在の素粒子は質量を持っている。それをうまく説明するために、「素粒子には本当は質量がないのに、ヒッグス粒子が存在するために素粒子に質量が生じている」と考えることにした。そのようにして、ヒッグス博士は1964年にヒッグス粒子の存在を予言した。


 ヒッグス粒子は、万物に質量を与える素粒子と言われている。正確に言うなら、素粒子に重さを与えているのはヒッグス粒子ではなく「ヒッグス場」だ。ヒッグス粒子は「ヒッグス場」のエネルギーが少し高くなった時の現れる波のようなものと考えられている。


ヒッグス粒子を理解するための喩え話

 このGIGAZINEの記事ではヒッグス粒子を一粒の雪の結晶に例え、ヒッグス場を積もった雪に例えている。光速で動く素粒子には質量がない。逆に言えば、動きの遅いものは質量を持っていると言える。雪の足を取られて動きが遅くなる人(素粒子)は、質量があるとみなされる。一方でヒッグス場に足をとられず進んでいく鳥(光など)は質量を持たない。

 本書では、ヒッグス粒子をジャーナリストが集まった会場に例えている。素粒子は有名人であり、その場に入るとジャーナリストに囲まれて進みにくくなる。一方で光子やグルーオンはまったく無名の人なので、会場に入っても誰も関心を払わず、そのまま「光速」で走り抜けることができる。あくまで喩え話だけど。


 クォークや電子は物質を形作る粒子で、光子やグルーオンは力を伝える粒子だが、ヒッグス粒子はそのいずれでもない。ヒッグス粒子は他の素粒子に質量を与える粒子だ。もしヒッグス粒子が存在しなかったら、宇宙誕生後に生まれた素粒子達はただ光速で飛び交っているだけで、原子も星も銀河もこの世に生まれてくることはなかった。理論上あると考えられていたヒッグス粒子が、2012年の加速器の実験で、ほぼ有意な形で発見されたのだ。


ヒッグス粒子の発見がもたらした謎

 そして、さらに衝撃的な出来事があった。CERNで観測されたヒッグス粒子はたしかにヒッグス粒子なのだが、理論上の予測と寸分違わずぴったりというわけではなく、少し軽かった。それが何を意味するのか考えていくと新しい法則の発見の手掛かりになるかもしれないとのことだ。発見されたヒッグス粒子は、「標準理論が予言していたヒッグス粒子」なのか、それとも「標準理論では説明しきれないヒッグス粒子」なのかという、新たな謎(手掛かり)をプレゼントしてくれた。ひょっとしたらこれが、宇宙を解き明かす鍵になるかもしれない。


宇宙はどのように始まったのか?

 どうして宇宙の話をするのに粒子の話からしなければならないのか?ビッグバン宇宙論が登場したとき、素粒子物理学と天文学が密接に関わりあっていることに物理学者も天文学者も気づかざるをえなかった。もともとこの二つの分野は別々に研究されていた。宇宙の解明には素粒子物理学が必要であり、素粒子の謎を解くためには宇宙を知る必要がある。今回ヒッグス粒子を発見するのに役立った加速器も、加速器の中で宇宙初期の素粒子の状態をつくりだそうとして発展してきた。


ビッグバン宇宙論はどのようして生まれたか

 まず、宇宙を観測した結果、宇宙のどこを見ても遠い星ほど距離に比例して速い速度で遠ざかっていることがわかり、宇宙が膨張していると結論付けることができた。このような膨張宇宙のモデルは後の宇宙論の出発点になった。宇宙が膨張し続けて今に至るということは、時間を遡れば宇宙はどんどん小さくなっていく。空間を小さく圧縮していけば、温度も密度も非常に高い状態になる。そこから導かれたのが、宇宙は熱い火の玉のような状態から始まったとされる「ビッグバン宇宙論」だ。1946年にロシア生まれの物理学者ジョージ・ガモフがそれを唱えたが、すぐには認められなかった。


ガモフの理論の証明

 1964年になって、ガモフの理論が観測によって実証された。ガモフの予言は、「宇宙が熱い火の玉で始まったのだとすれば、その名残が今の宇宙にも残っているはずだ」というものだった。温度を持つすべての物体からは電磁波が出ている。ビッグバンの残り火は、宇宙のどこを見ても、あらゆる方向から同じようにやってくる。(最初は火の玉で、それが外側として広がっていったわけだから)そして、実際にビッグバンの残り火が発する電磁波を観測することができて、ガモフのビッグバン宇宙論が広く信じられるようになった。


宇宙は何でできているのか?

 科学者達は宇宙の謎を解こうと、広がっていく宇宙の膨張率を調べた。現時点で宇宙がどれだけ膨張しているのかわかれば、宇宙の年齢を特定できる。しかし、詳細に調べていくにつれて、衝撃的な事実がわかった。それは、宇宙の膨張率はだんだん加速しているということだった。


宇宙の膨張が加速しているという衝撃

 現在の科学の理論から考えると、宇宙の加速膨張は説明がつかない。星や銀河やガスなどの物質には重力があり、重力はものを引き止める方向に働くので、宇宙の膨張はだんだん遅くなっていくと誰しもが考えていた。しかし、観測の結果によると宇宙の膨張は加速している。これを説明できる理論が見つからない。


宇宙に満ちる暗黒エネルギー

 膨張を減速させようとする宇宙の物質に逆らって、何らかの力が宇宙を加速膨張させている。これは普通の物質でも普通のエネルギーでもなく、現在の私達が持つ科学の体系の埒外にあるものだった。

 専門家はこれを「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」と名づけた。正体不明の、理解し難い何らかのエネルギーが働いているということだ。

 そして、2003年のWMAPの精密な測定によると、宇宙全体の中で、暗黒エネルギーが宇宙の73%、暗黒物質が宇宙の23%、私達が知っている普通の物質は宇宙全体の4%しかないことがわかった。つまり、ヒッグス粒子の発見によって完成された標準理論でも、宇宙のたった4%しか説明できないということになる。この少年ジャンプっぽい感じが素晴らしい。


宇宙はこの先どうなるのか?

 未来を知るために起源に遡る必要がある。膨張する宇宙を眺める天文学者にとって、「遠くを見ること」と「過去を見ること」は同義だった。だが、どれだけ望遠鏡の性能を上げても、光が観測できない38万年以前の宇宙は観測することができない


宇宙の晴れ上がりとは

 宇宙が誕生してから38万年経つまでは、プラスの原子とマイナスの原子がばらばらに飛び交っていたと考えられている。このような状態を「プラズマ」といい、プラズマ状態では、光が真っ直ぐ飛ぶことができない。宇宙誕生から38万年後に、原子核と電子が結びついて水素原子やヘリウム原子ができ、そのおかげでやっと光や電磁波がまっすぐ進めるようになった。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼ぶ。ビッグバンの証明として観測されたマイクロ波も、38何年経った後に晴れ上がった宇宙から放たれた光だ。38万年以前のことは、光や電磁波を観察してもわからない


最新の宇宙研究は?

 もっと過去の宇宙を調べるために、どうやって研究を進めればいいのか。一つの可能性は、加速器実験などで38万歳より若い宇宙の姿を再現してみること。そしてもう一つの可能性は「重力波」の観測だ。

 「重力波」は、重さを持つものがつくりだす空間の歪みで、アインシュタインの一般相対性理論が予言する波だ。重力はプラズマに邪魔されることなく空間を進むので、その観測に成功すれば、宇宙誕生の初期の様子に迫ることができる。なんとか重力波を捕まえようと、世界中の研究者が競い合っている。

 日本でも、岐阜県神岡鉱山の地下に、かぐら(KAGRA)という名前の重力波観測装置を建設中だ。2014年の9月にはトンネルが完成したとか。

大型低音重力波望遠鏡KAGRA-公式サイト


  また、発見された「少し軽い」ヒッグス粒子を調べることで、暗黒エネルギー解明のヒントが得られるかもしれないと、CERNのホイヤー所長が言っていたらしい。ヒッグス場と暗黒エネルギーを生み出す場には共通項がありそうとのことだ。


宇宙の今後は?

 宇宙の未来予想は、ばらばらになってはじけとぶとか、どこかで膨張の加速が止まって収縮に転じるとか、色んなことが言われている。だが、とりあえずは暗黒エネルギーの分析、理解が、宇宙の正体に迫るために必須だと言う。暗黒エネルギーを少しでも明らかにしようと、今も大勢の科学者達が研究を続けている。



おわりに

 一般人にもイメージがつかめるように書かれた本であって、こういう種類の話題に厳密さを求めようとすれば、おそらくとんでもないことになる。しかし、この本を読んで「なんとなくすごいなあ」と無邪気に感動したりできるのは僕たち一般人の特権でもあるように思う。

 僕の要約では本書の魅力をあまり伝えられなかったと思うが、優秀な科学記者が苦心して一冊にまとめた本をさらに一記事でまとめろというのは無理な話だ。悪しからずご了承くだされ。




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