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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

「若者はかわいそう」論のウソは本当か?

 エンゼルバンクっていう転職代理人の漫画知ってる?そこに出てくる登場人物、海老沢康夫にはモデルがいる。リクルートでキャリアを積んで、雇用のカリスマと呼ばれる海老原嗣生氏。今回は彼の著書『「若者はかわいそう」論のウソ』と『就活、絶望期-「若者はかわいそう」論の失敗』を読んだよ。


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 「若者がかわいそう」というのはウソだと海老原氏が主張する理由をざっくり言うと


  • 大卒の仕事が増えるわけじゃないのに、大学生が増えた。だから就活難になるのは当たり前
  • みんなが大企業目指すようになったけど、いつだって5人に4人は無名企業に入る。今も昔も大企業行けるのはごく一部なんだから能力無いやつが調子のんなや
  • 新卒一括採用って欧米だとエリート層のもの。日本の新卒はみんなが「幹部候補」であって、どんどん地位が上がっていく仕組みになっている。頭いいやつのための仕組みなのに、本来大学に入れる実力もなかった馬鹿が幹部候補なんてずるい!


 みたいな感じ。そういえば、16卒から就活の時期が遅くなるよね。海老原氏の主張によると、新卒採用が後ろ倒しされると就職率は大幅に減るらしい。


 普通、大学受験とかだと誰もが「東大、京大」を受験するわけじゃないんだけど、なぜか就活となるとほとんどの大学生が「人間性」みたいなものを見てもらえると思って超人気企業から応募していく。そういう学生は最初から諦めろと言っても現実を見ることがない。

 4月中旬に大手の内々定があらかた決まるけど、それが一度目の茫然自失期。だんだん現実味が加わりだすが、まだ夢から覚めることがない。この時点では、大手グループ系列や有名なBtoB企業が残っているのでまだ希望がある。5月終わりにはそういうところも埋まって二度目の茫然自失期。

 でもまだ海外留学組の募集とかも残っていて、学生はなかなか夢を諦めきれない。夏休みに入ってようやく「大手は無理」と判断する。そして、普通はそこから現実的な職業選択を始めることになる。今まではこんな感じ。


 なのに、就活を遅らせるとそのスタート時が年明け頃になり、どこを受ければいいかわからずに2、3ヶ月が過ぎてしまうから、新卒採用の時期を後ろ倒しすると就職率は大幅にダウンする。


 ……まあ、リクルートで働いてた人間がよくこんなこと言えるなとは思うけど、就活の後ろ倒し自体には当の大学生側からも否定的な意見は多いよね。




 ざっと読んだ感じ、海老原氏は論を展開するというよりも「俗説をデータで覆す」ことを目的としてるように思えたけど、一応主張としては、「学生はもっと中小企業に目を向けろ」ということになるのかな。正しいマッチングができてないのが悪いというのは、就職会社の人間の言うこととしては妥当だ。

 一つ目は、新卒を採用するような中小企業は、「零細・不安定・低待遇」とは少し異なるということ。2つ目は、大手企業のような粒ぞろいの一群と違って、中小企業は千差万別であり、平均値で見るのはまったく意味がない、ということ。利益率でも年齢別給与でもそうだったが、採用基準や勤務環境などでもすべてそうなのだ(海老原嗣生 就職、絶望期)

 そうなのだろう。でも、現場の実務に関わるプロを主張するなら、まともに働けて数十年後も潰れてなさそうな中小の割合は全体のどれくらいなのか、という話をするべきなんじゃないの?

 すべてを「正社員」という言葉でくくるデータ持ち出してきて「正社員になることはそんなに難しくない」と言ってもほとんど意味はないと思う。一番気になるのはその「程度」なわけで、「千差万別」ですって言って終わっちゃダメだろ。ブラック企業とホワイト企業、潰れそうなところと生き残りそうなところの線引はどうするのか、それはどのくらいの比率なのか、そういうことが知りたいんじゃないの?もちろん調べるのは難しいし、リクルートはそんなデータ持ってないのかもしれない。で、「マッチング」とか「適性」の問題と言っちゃうんだろうね。



 海老原氏の主張には、日本の新卒一括採用は(いろいろ問題はあるにしても)素晴らしい、というのがある。欧米型のシステムを取り入れろという人が多いけど、若年失業率は欧米のほうが多い。欧米の場合は若者を育てる仕組みがないのに対し、日本はなんの経験もない若者を一括採用して育ててもらえる。

 日本型の総合職採用であれば、入り口で「社風に合う」人さえ採用しておけば、あとは異動をくり返して、自然とパフォーマンスの上がる部署に行き着くことになる。そして、事業部門の人員不足の調整も容易だ。余った部署から足りない部署へと、なんの問題もなく行き来できる。しかも、こうした異動の間にも企業理念とかDNAといったものは蓄積され続ける。非合理の塊のように言われる「日本型」にもこんなメリットがある。だから日本企業はなかなか、この「古臭い」と呼ばれる制度をやめはしない。そして、この制度のおかげで未熟な学生が大量に新卒採用される。(海老原嗣生 就職、絶望期)

 主張はわかるよ。でも、別のところでほとんどの学生は中小企業に入るべきって言ってたよね。「中小企業は千差万別」なんだろうけど、言葉の定義からして、中小によくあるデメリットって人が少ないから人事異動とか部署異動が十分にできないことなんじゃないの?主張に統一性がまったくない。



 普通、世代の問題とか労働問題を考えるとき、産業構造の集約化とか、企業の海外移転が進んでるとか、誰でもできる単純労働と高度な頭脳労働に二分化しつつあるとか、そういう視点って少しは必要だと思うんだよね。それをリクルートのアンケート調査とか使って現場からの実証的なデータで通説を覆す、っていうのはほとんど胡散臭さしかない。まあリクルートの人間だし、こういう人見てると就活生とか企業煽って金儲けるのってちょろいんだろうな、とか思ってしまう。

 彼の主張には、耳を傾けるに値することもけっこうあると思うだよね。それでも、通説を覆して目立ちたいというのが前提にあるし、データの使い方も信用できない。




 海老原氏の本を小林よしのりが批判してるのが面白かったwww


「若者はかわいそう」論のウソのウソ

 ゴー宣道場っていうやばい企画があるんだけど、海老原氏の主張を鵜呑みにして就活生を批判した人に喝を入れている。自分のつらい経験を皆の前で話した就活生を前にして、その意図を汲み取らないまま否定するのは何事だという常識的な意見。そして、実感を偏りのあるデータで覆そうとする試みの浅さを看破する。

保守は「実感」をそう簡単に手放してはいけないと思います。

 だってさ。…ちょっとかっこいいじゃねーか。


「若者はかわいそう」論のウソのウソPART2

 海老原氏は「求人数」というデータだけを見て、まだまだ仕事あるだろと主張していたが、実際に就職口は減り続けてるという話。



 「若者がかわいそう」なのかどうかというのは、単なる注目を集めるための戦略だろう。かわいそうかどうかなんて考えても仕方がない。僕自身の意見を言えば、社会認識とか周囲の状況が違うんだから世代間で公平とか不公平とか考えても生産的な話にはならないと思う。もちろん社会保障費とかは数字で出るし、それは政策に反映させるべきだが、そこを糾弾して無駄にいがみ合ってもどうにもならない。問題は、上の世代にとっての常識がすでに非常識だったときに、その溝をどうやってうまく埋めていくかだと思う。

 まあ海老原氏は雇用のカリスマ()なので、そういうマクロな知見を期待しても仕方ないかもね。


「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書)

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