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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

経済学好きが大好きな本。『海賊の経済学』を読んだ

本の感想 政治経済

 海賊のイメージと言えば、パイレーツ・オブ・カビリアンに出てくるジャックスパロウなどの登場人物が象徴するように、ラム酒で酔っ払って陽気に歌を歌い、略奪を生業にする戦闘狂で、傍若無人な無法者、みたいな感じだろうか。まあ日本はあまり海賊に親しみのない国だから、海賊=ワンピースみたいな認識かもしれない。ワンピースが比較的海外で人気ないのは、本場の人が持ってる海賊のイメージとあまりにもかけ離れてるからとも言われるよね。(家庭教師ヒットマンリボーンはイタリアで人気あるみたいだけど…)


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 海賊たちは、意外にも、当時としては先進的で合理的な仕組みに則って略奪を遂行していた

 船長は一人一票の民主主義的な方法で決められた。一人一人が同等の権利を持ち、待遇や宝の分け前も平等だった。「海賊の掟」という皆が守らなければならない法もあった。黒人や奴隷でも差別せずに仲間に加えることがあった。戦闘によって怪我した場合の福祉さえ用意されていた。

 傍若無人な略奪者がなぜこのような先進的な制度を整えることができたのか。それを経済学を使って分析したのが『海賊の経済学』という本だ。山形浩生訳で、面白いと評判だから僕も読んでみた。簡単な要約と感想を書くよ。


海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密

海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密


 本書の主旨は、海賊たちはただ私利私欲に従って行動していただけなのに、結果的に民主主義や人種間の平等などの先進的なシステムが整えられていったということ。


 まず、海賊の船長は一人一票の多数決で決め、不満が出ればそのつど審議にかけることができた。一度の航海で12回も船長が変わった記録もあるそうだ。船長に選ばれても食事や寝床などの待遇は他の海賊たちと同じだった。戦闘や仕事の際に統制をとる役は絶対に必要だ。船長は素早い判断が求められる状況では絶対的な権限を持つが、その時以外は他の船員と同じ待遇だった。

 また、船長だけに権力を一元化させるのは危ないから、クォーターマスターという役職をつくり、それぞれの支給品の割り当てや、掠奪品の選定と分配、船員たちの紛争の仲介などを取り仕切らせた。クォーターマスターも船長と同じく投票で選んだ。

 戦利品の分配は、船長やクォーターマスターが一般の船員より多く貰うこともあったが、その差は多くても普通の船員の2倍だったそうだ。


 なぜこのようなことができたかと言うと、海賊たちの船は盗んだものだったから。「プリンシパル・エージェント問題」というのがある。雇い主(プリンシパル)と雇われた人(エージェント)の利害は、かならずしも一致しない。例えば賃金が時給で一定だった場合、雇う側からすれば一生懸命働いて欲しいけど、雇われた側からすれば仕事してるふりして手を抜きたい。

 真っ当な仕事である商船の場合、船の持ち主であるプリンシパルは、海に旅立ってしまうエージェント達を監視することができない。陸にいるときは真面目にしてても、海に乗り出して目が届かなくなったとたんに「宴だ〜!!!」みたいな感じでめちゃくちゃ遊んでしまうかもしれない。

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 だから、商船は船長に権力を集中させる強権主義の方式を取らざるをえなかった。船長には成果を上げるインセンティブを与え、後は部下たちを権力で抑えつけさせた。

 もし商船で民主的に船長を選ぶ方式をとったら、みんな楽したいから楽させてくれるような船長を選ぶだろう。だから、商船の船長は一方的な権力を持ち、部下に処罰を与えて規律を守らせた。この方法なら「プリンシパル・エージェント問題」は解決する。だが、船長の収奪が始まる。部下は逆らうことができず、ひどい懲罰を与えて楽しむ船長もいた。ホモの船長が若い船員をアーッ!みたいなこともあった。一人に絶対的な権力を与えるとそういうことになりやすい。一般的に、商船の下の立場の者の待遇は悲惨だった。


 海賊にとって船は盗んだものであり、プリンシパルがいなかったから何のしがらみもなく民主的にやれたというわけ。(褒められることでもないと思うが)

 ちなみに、商船の酷い待遇に耐えかねて海賊になった人はたくさんいた。海賊は商船を捕まえると、船員に船長の評価を聴いてまわって、船長が酷いやつだったらめちゃくちゃ拷問していじめたんだとさ。


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 海賊は、仲間を集めるとき、捕まえた船から船員をリクルートすることも多かった。そのとき、なるべく志願制という形で募集したがり、仲間に引き入れるとみんなと待遇を同じにした。また、黒人でも奴隷でも、仲間になると対等な立場の同じ海賊として扱った。これは海賊が差別撤廃主義者だったからではなく、純粋に合理的な理由があった。

 まず、みんなが対等な立場ならやる気もでるし、フリーライダーがいなくなる。仕事柄、誰かが手を抜いたり下の立場のものが反感を持っていたりすると全体にとって致命的になることが多い。だから同じ権利を保障してモチベーションを高めた。また、奴隷という形で乗組員を集めるのを渋ったのも裏切られたりしたらやばいからだ。福祉が整えられたのも、安心して危険な仕事を遂行するため。

 先進的な制度が整えられていったのは、すべては略奪を成功させてヒャッハーしたいという私利私欲に忠実だった結果という話


 そんな感じで著者は経済学の考えを使い、謎に満ちた海賊たちを読み解いていく。


 根底にあるのは、アダム・スミスの「見えざる手」といいう考えだ。傍題は「見えざるフックの秘密」となっている。人々が私利私欲に基づいて行動すれば「見えざる手」が調整してくれてうまくいくように、海賊たちもヒャッハーしていれば「見えざるフック」が働くから、変に理想なんて掲げるよりもよっぽど合理的になる、というのだ。ただ、ちょっと疑問もある。


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 アダム・スミスの時代は、社会の激変期で、みんな不安だった。「自由になったのはいいんけど、色んな人が好きに仕事しだしたら社会は大変なことにならない?大丈夫?」という声に、「見えざる手が需要と供給を一致させてくれるからオールオッケイ。むしろ全体の富は効率よく増える。好きな仕事しなよ。みんな幸せになれるよ!」と言ったのがアダム・スミスだ。

 しかし、ピーター・T・リーソンが言う「見えざるフック」ってそういうふうに使えるのかなあ。海賊が合理的なシステム整えてうまくやったら、他のやつらからしたら困るじゃん。残虐な拷問も「ブランド戦略」としての合理性を持ってたとか言うけど、それは海賊側から見たミクロな視点でしょ。(そもそもフックって何かを調整するイメージにはそぐわない)


 アダム・スミスが言った意味の「政府が無くてもうまくいく」とこの本の話は違うと思う。一つの船に乗ってる海賊は多くて数百人くらいだし。

 政府とか関係なく、少人数が何かの目的を達成するために色々やってれば、その試みがそれなりの合理性を持つのって当たり前のことだと思うんだよね。そもそも、海賊って少数だし能力が均等だったから民主主義が実現したんじゃないの?この本には分業という概念が出てこないし、むしろアダム・スミスから離れていってると思う。


 まあ、まず傍若無人な海賊のイメージがあって、実は海賊たちって意外と合理的で、それは経済学でけっこう説明できますよというのが『海賊の経済学』という本の目新しさだ。解説で山形浩生が「一般人の海賊認知ギャップをうまく突いた本だ」と言ってるけど、ちょっと皮肉にも思える。訳者の建前からか基本的には褒めてるけど。

 海賊船上の平等や船長の地位の低さというのは、必ずしもすべての海賊に共通するものではない。ジョンソン『イギリス海賊史』を読むと、黒ひげ船長ことティーチは、とんでもない暴君船長として君臨し、部下の虐待など日常茶飯事だ。また海賊が陸上の町に忍び込み、夜陰に乗じて放火と破壊と掠奪しまくり、ついでに町中の娘をかっさらって船につれこんで、乱暴狼藉の限りを尽くしたという話も山ほど出てくる。そもそも掟があるとは、そういうことをするやつが規制を必要とするほどたくさんいた、という実態の裏返しでもある。


 したがって本書で描かれる、自由、平等、非暴力といった海賊の特徴は、すべての海賊についてあてはまるものとは思わないほうがいい。むしろ、なかにはそういう先進的な制度を実現していたやつらもいる、という程度に思っておいたほうがいい。(訳者解説 山形浩生)


 とある。筆者のピーター・T・リーソンも、海賊に関しては十分な資料がないと言っていた。海賊全体の何割くらいが筆者の言うような事例に当てはまるのかは調べようもないだろう。


 海賊のごく一部の行動は、経済学を当てはめれば説明できることもありますよ、というなら、それはそれでいいし、実際に海賊の話はとても面白い。

 でも、この筆者の考えって明らかにぶっとんでる感じだよね。市場にまかせれば大抵はうまくいくというか、政府すらも否定してる感じがある。「8章、海賊に教わるマネジメントの秘訣」で「利潤に企業の組織形態を決めさせるのが、あらゆる場合に望ましい」みたいなことも言ってるが、ごく一部の海賊の話からここまで普遍的な法則を導き出すのはさすがに無理があるだろ…。


 一部の海賊の不可解な行動は、経済学を使えばけっこううまく説明がつくこともある → 面白い!!


 一部の海賊は倫理観を持たず私利私欲に基づいてやっていて、だからこそ民主的で平等で合理的な制度が出来上がっていった。海賊たちは強欲のおかげで進歩的な制度の先駆者になれた。現実の企業もそうするべし → おかしい!!





 よく、恋愛を経済学で分析したりする人とかいるよね。別にそれ自体は面白いと思うんだけど、ごく一部の狭い了見を抜き出してきて、初歩的な理論でモデル化して、それでドヤ顔してなんか意味あるの?って思ってしまう。

 そういうのは経済学者というより経済学好きと言うべきだと思う。そんなくだらないことしなくても経済学のすごさは疑う必要ないだろうし、むしろ泥かけてるレベルのものばっかりなんだけど、なんでだろう。簡単なアプリでも自分の手でプログラミング組んでちゃんと動いたら嬉しい、みたいな感覚なのかな。


 『海賊の経済学』は、そういう経済学好きにはたまらない本なのだろう。もちろん、分析には一定のクオリティがあるし、全体としては悪くない本だ。ていうか、海賊の話っていう時点でもう面白い。ディズニーランドの「カリブの海賊」に乗りたくなってきた…。




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