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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

消費と政治は結びつくのか、『フード左翼とフード右翼』について

本の感想 社会

 速水健朗『フード左翼とフード右翼』を読んだ。良い本ではなかったけど、この本のテーマになっている考え方自体は非常に興味深い。それは、何を買うか選ぶことがそのまま政治意識の表明につながるという視点だ。

 数年前に、2ちゃんで花王などの商品の不買運動が呼びかけられていたことがあったよね。反日的な内容の番組のスポンサーをしている企業の商品を不買する運動で、その政治的な主張の善し悪しは置いておいて、何を消費するか選ぶことで社会的な主張や政治的な活動をするという考え方自体はそれほど悪いものではないと思う。


 安さと質の「競争」はある程度限界が定まるし、あとはちょっとした趣向の違いとか販売戦略によって売上が決まっている商品は多い。莫大な広告費用を払いどんなタレントを使うか、みたいな形の競争よりも、従業員の待遇が良いとか社会貢献をしていることをアピールする企業の商品が売れてもいいと思う。どんな主張をしている企業のものを選ぶか、という政治意識のあり方があってもいいし、競争のインセンティブがそういう方向に働くもの悪いことではないだろう。

 僕はワタミやモンテローザ系列の店に行ったことがないし、餃子の王将や牛丼チェーンにも行かないようにしている。でも、外食なんてどこもブラック企業なのかもしれないし、比較的よく行く大戸屋だって酷いことをたくさんやってるのかもしれない。でもそういうのってなかなかわからないから、指標とデータベース作って、政治的に行きたいと思える企業とそうじゃない企業を考えることができるサイトを開設すれば一儲けできるのではないだろうか。でもそんなことしたら訴訟の嵐だろうな…。



 『フード左翼とフード右翼』という本だが、使っている引用とかデータの信憑性が疑わしいし、それにプラスしてほとんど筆者の主観で書かれているので、内容はけっこう眉唾ものが多い。

 筆者が言うには、圧倒的大多数のアメリカ人が自然環境保護の問題に関心を持っていて、もはやアメリカ人は政治運動で政府を動かすよりも、買うことで企業を動かして社会の問題を解決しようとしているらしい。で、日本でもこれと同じ調査が行われているらしく、日本人は政治運動にアレルギーを持っているので、アメリカ人以上に消費による社会変革に可能性を感じているとのこと。まあ可能性を感じているという点では僕もそうなのかもしれない。



 本書は「食と政治」の結びつきをテーマにしているが、「食」と言っても家庭の食卓とかには一切触れずに消費としての側面から食を扱っているので、「食の消費と政治」として考えたほうがいい。そして、「フード左翼」、「フード右翼」という言葉を使って食の消費をマッピングしている。


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 本書の分類では、健康志向がフード左翼でジャンク志向がフード右翼らしい。菜食とか有機農法とかに拘りを持って遺伝子組み換えを否定するのが左翼で、「玄米は土に入れると芽が出てくるから生きる力が強いの!!」とか言う人が多くて、金持ってて健康的な食品を選ぶことができる人も左翼だそう。一方、ファストフードやインスタント食品ばっかり食べている人は右翼で、そういう人達は食の工業化とか輸入食品にも賛成で、極端な奴はジロリアンで、貧乏でジャンクフードしか食べれなくて太ってる人もみんな右翼らしい。


 分類の妥当性とか以前に、そもそもフード左翼とかフード右翼という言葉を使って、何か踏み込んだ考察ができるとか状況を上手く整理できるということがほとんどない。逆に言葉を使うことによって混乱しているくらい。書かれている内容に一貫性もないし、本書を読んでそれらの言葉にまともに取り合う必要は一切ないと思う。

 もちろん字面にはインパクトがあるので、本の題名をキャッチーにできるし、左翼とか右翼とかのマッピングに字数を使って中身を埋められる。あわよくば「フード左翼、フード右翼」という言葉が広く使われるようになって欲しい、という意図があったのかもしれない(現状そんなことにはなっていないみたいだが)。販売戦略としてはかなり上手い。

 しかし、フード左翼、フード右翼という言葉が本書でパフォーマンスを発揮しているとは思えない。むしろ、消費と社会問題という視点、食の好みと政治意識というめちゃくちゃ面白い題材を扱って、どうしてこんなに酷い本ができあがるのだろうと驚いたくらいだ。クオリティとか関係なくただ本が売れさえすればいいという思考で文章をかけばこういうものになってしまうのだろうか。僕は著者の他の本を読んだことがないけど、長い目で見てこういう三流ライターみたいな仕事はしないほうがいいと思う。本書を一言で言えば「釣り」だし、ブログなんかでも釣り記事書いて人を集めたって評価下がるだけだからね。



 ただ、本の質はともかく、扱ってる内容の一つ一つは面白そうなのもあって、いくつか紹介してみたい。


 まず、有機農法と遺伝子組み換えの問題。化学肥料を使わない有機農法は土地効率が悪いので、マクロな視点で見れば大多数の食を供給することができないし、金持ちフード左翼の贅沢らしい。有機農法で作られた健康的で美味しい野菜は世界のトップ2%の満足度には寄与するけど、残り98%の人に生命の危機をもたらすとのこと。

 しかし、有機農法の効率の悪さをぴったり補うことのできる可能性こそが遺伝子組み換え技術。何かと効率が悪い有機農法の弱点を遺伝子組み換え技術でカバーすれば、オーガニック野菜を得ながら同時に世界の飢餓も救える可能性がある。しかし、主に思想的な問題として、遺伝子組み換えに真っ向から反対するのが有機農法に積極的に関わる農家らしい。フード左翼は極端に理想的になりがちなので、妥協を許さず、有機農法と遺伝子組み換えが相容れない「フード左翼のジレンマ」に陥ってしまうという。ホントかなあ…。



 あとは、全国展開する大手コンビニチェーンで健康志向のコンビニ弁当が成立しない問題。商品開発の要望を募るとカロリーが低い健康志向の弁当を求める声が多いらしいけど、実際に作ってみると長期的には売れないそうだ。全国に展開しているチェーンのコンビニ弁当は、多数派を占めるのが地方や郊外の店舗の利用者で、男子学生や肉体労働者の数少ない選択肢の一つとして売れている。だから健康志向の弁当はコンビニチェーンとしては決して成立しない商品らしい。

 一方で、都市部にはオーガニックなどのニッチなジャンルでもそれを受け入れるだけの人口集積があるから選択肢が多様になる。地方は健康志向の商品を受け入れるだけの人口がないから、選択肢は限られジャンクな食品が並ぶことになる。だからフード左翼は都市部でしか成り立たず、地方ではフード右翼が圧倒的多数派だそう。

 家庭の食卓とか年収とか職業とかに踏み込まずよくもまあこういうことが言えるなあとも思うが、そもそもこの本の言説自体、主観か客観が区別しにくいし、全体的に信憑性に欠ける。



 まあ、こき下ろすようなことを書いてしまったけど、取材とかにたくさん足を運んでるからふざけているわけではないだろうし、一冊の本としてはどうなのかなと思うことが多いが、選ぶ題材とか着眼点には興味深いものがけっこうある。あと、本書では上手く捌ききれていなかったが、消費と政治というテーマ自体は面白いし、これからもどんどん注目されていく視点だと思う。



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