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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

チョコレートの世界史

 副題は『近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』。作者は翻訳家ではない武田尚子さん。カカオ豆まで遡り、チョコレートの誕生から近代化までを、当時の社会情勢、クエーカー教やロウントリー社などにも絡めながらたどっていく。文献にもしっかりあたっていてうまく整理されているし、著者のチョコレートへの愛が伝わってきて良い本だった。もちろん「バレンタイン」なんて単語はどこにも出てこない。

 

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書)

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書)

 

 

 チョコレートの原料であるカカオは、コーヒーなどと同じような豆である。カカオ豆とコーヒー豆の違う点は、豆に含まれる油分量、脂肪の量だ。コーヒー豆の脂肪分は重量の16%ほどで、豆を焙煎し、挽いて抽出すればそのまま飲料になる。一方、カカオ豆は45%から55%程度が脂肪分である。豊富な脂肪はコクや旨味のもとだが、油分の処理には手間がかかる。油分をコントロールし、砂糖などを加えて調整して、ようやく飲んだり食べたりすることができるようになる。

 カカオ豆の原産地は中米のメソアメリカと呼ばれる地域だ。15世紀まで、カカオはマヤ人やアステカ人があつかっていた。カカオ豆は神秘的なパワーの象徴として珍重され、神々への供物として捧げられたり、貨幣として用いられたり、栄養価の高い食物としてあつかわれた。カカオは貨幣となるほどの貴重品だったから、口にできる人は社会上部層に限られていた。当時は脂肪を分離したココアとして飲む技術も、チョコレートにするような技術もない。発酵、乾燥させたカカオ豆を土鍋に入れ弱火で煎り、石の麺棒で豆を粉砕した。すり潰されたドロドロの豆に、飲みやすくするために様々な香辛料や、苦味を和らげる添加物が加えられた。それを激しくかき混ぜ泡立てたものを飲んだ。そのようなカカオ飲料は甘いわけではなく、むしろ苦くて刺激の強い飲み物だった。煎じ薬のような薬用飲料として扱われ、裕福なものはバニラや蜂蜜を入れて飲んだ。

 マヤ、アステカの嗜好品だったカカオは、スペインの植民地になってから、ココアという飲み物として各地に広まっていった。カカオだけではポリフェノールの苦味や酸味が強すぎてヨーロッパに人々の口には合わない。砂糖の甘みとセットになってこそ、カカオ豆特有の酸味と甘味が生きる。ヨーロッパにおいてカカオは、砂糖と双子の兄弟のようにセットで広まっていった。

 近代ココアの誕生

 ココアはヨーロッパの人に広まったが、主に薬品として販売され、まだまだ渋くて苦い飲み物だった。もっと飲みやすく改良したのが、オランダのコンラート・ヴァン・ホーテンだ。彼はカカオから余計な脂肪分を取り除く「脱脂」の方法と、酸味を中和しておだやかな口当たりに変える「アルカリ処方」を思いつき、特許を取得した。アムステルダムにあったヴァン・ホーテン社は郊外に工場を移転させ、機械設備、労働環境を整え、近代的なココア製造業を形成した。

 チョコレートの誕生

 ヴァン・ホーテンのアイデアは、どうやってカカオから脂肪分を抜くかということだったが、チョコレートの生みの親、ジョーゼフ・フライのアイデアはそれと反対で、むしろ脂肪の部分をこそ多くするというものだった。脂肪分が増量されることで、より多くの砂糖を溶かしこむことが可能になり、苦味が軽減した。よくかき混ぜて練り上げると、なめらかな舌触りの甘くて風味のよい固形物になった。そうして「チョコレート」が誕生することになった。1847年のことだ。さらに、19世紀の後半には「ミルクチョコレート」が登場する。当時のチョコレートはまだ苦味が強く、材料の粒子の粗くてざらざらした食感が残った。そこに砂糖やミルクなどの材料を長い時間かけてすり混ぜると、現在私たちが食べているものに近いなめらかな触感のチョコレートになる。そこからのチョコレートの発展は筆者が特に力を入れているところで、「キットカット」を生み出したイギリスのロウントリー社について詳しく書かれる。興味のある方はぜひ本書を手にとってみて欲しい。

 ちなみに日本ではココアもチョコレートもほぼ同時期に受け入れられ、国産品の製造はチョコレートのほうが早かった。最初は原料のチョコレートを輸入して、それを加工して売っていた。カカオからチョコレートの一貫製造に初めて取り組んだのは森永製菓で、アメリカから製造機を買い付け、国産のミルクココアの製造を始めた。ミルクチョコレートは1920年には一枚10銭で売られ、当時としては贅沢品だった。

 

 書いているとチョコレートが食べたくなってくる。こんな日にチョコ買うと、「うわwwwこいつwwwバレンタインデーなのに自分でチョコ買ってるwwwww」みたいに思われそうで嫌だ。まったく、くだらない男女のやりとりにチョコレートをだしにするなんて、本当にチョコが食べたい人にとっては迷惑なイベントですよね。