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しっきーのブログ

ひろいこころで\(^o^)/

EU崩壊

 

 著者の木村正人さんはロンドンを拠点に国際ジャーナリストとして活躍している方で、欧州の政治経済に詳しく、本書ではEU諸国のドタバタ劇などを興味深く紹介している。自分のように世間に疎く不勉強な人間にとってこういう本はありがたい。

 

EU崩壊 (新潮新書)

EU崩壊 (新潮新書)

 

 

 2009年にギリシャの粉飾財政が発覚してから、EUという試みにはいろいろ無理があるんじゃないかという問題が表面化してきた。

「欧州はイギリス、フランス、ドイツの絶妙なバランスの上でしか成り立たない宿命を背負っている。その意味では、この3ヶ国が別々の方向に進んでいくなら、EUは事実上の崩壊を余儀なくされる」と本文にある。まあそれぞれの国にそれぞれの事情はあるだろう。

 EUが一つのまとまりになれば対外的に大きな力を発揮できるが、それぞれの国の主張が錯綜しているし、これといったまとめ役が出てこない。実質的な力を持たないEU大統領なんてものを作ってみても、対外的には無駄に判りにくくなってしまう。北と南、東と西、大国と小国、それぞれの思惑がぶつかり合って、通貨同盟という甘い夢が崩壊しようとしている。

 

 ドイツ

 第一次世界大戦後、敗戦国ドイツに課せられた巨額の賠償金がヒトラーを生む土壌を作ったと言われている。その反省から、第二次世界大戦後は、連合国の多くがドイツへの賠償請求を放棄した。

 ドイツは第二次世界大戦時にギリシャを占領し、鉱物や農産などの資源を好き勝手してギリシャ国庫から金塊を奪い取るなど、推定800億ユーロから1000億ユーロにのぼる危害を与えたが、ギリシャはその賠償を諦めざるを得なかった。その負い目から、EUの人たちはドイツがギリシャを助けると思っていたそうだ。でもメルケル首相の腰は重くて、ギリシャは救済されなかった。さすがに限度があったのかもしれない。

 ドイツの中にだって問題はたくさんある。「オスタルジー」という言葉は初めて聞いた。これは「ノスタルジー(Nostalgie)」のNをとって「オスト(Ost)=東」とした造語だ。つまり東ドイツに対するノスタルジーのことだ。統合されて東ドイツの平均的な生活水準は上昇したのだが、グローバル競争は格差ももたらしている。そのために格差がない(と思われていた)東ドイツ、共産主義の幻想を再び思い描く層もいる。グローバル資本主義はEU経済のエンジンであるドイツにも大勢の負け組を生み出している。

 ドイツとしてはユーロを解体して自国通貨に戻るか、統合するにしてもEU全体じゃなくて、例えば通過の強い北EUと通貨の弱い南EUなどの、もっとそれぞれの実力が反映される小さな通貨同盟を望んでいる。債務危機によってユーロ安が進んだことで、ドイツの優良企業は買収のリスクにさらされている。

 

 フランス

 フランスの経済規模はユーロ圏でドイツの次に大きいのだが、自由経済は肌に合わないらしい。GDPに対しての公共支出が占める割合だが、フランスは56%強ある。高福祉、高負担モデルのスウェーデンでも50%、イギリスとドイツは45%、日本は41%強らしい。フランスは欧州一大きな政府を抱えている。「資本主義はうまく機能し、維持すべきシステムか」という世論調査をフランスで行い、「イエス」と回答したのは15%、ちなみに共産主義を掲げる中国では65%が「イエス」と回答したらしい。フランスでは労働組合が非常に強く、従業員を解雇するのに長期間の裁判が避けられない。失業率が10%超えるが、若者の失業率は25%近いらしい。2005〜10年の間にフランスが世界の輸出に占める割合は20%も低下した。今まで全然知らなかったのだが、これはなかなかにやばいと思う。

 

 イギリス

 第二次世界大戦が終わって、「植民地なき大英帝国」では自由経済を維持できなくなる。偉大な統合の運動の先頭に立てるなら、ぜひやりたい。つまり大英帝国であるという意識を捨てられない。イギリスの意識としては、欧州単一通貨のユーロは嫌だが欧州の「市場」は自分のものにしたい。アメリカや中国などとあんまり取引させたくない。国内ではユーロを抜けてしまえという声も大きいが、イギリスがユーロを離脱するとユーロ圏みんなが困る(アメリカや中国やロシアに対する圧力がなくなる)から他の国が引きとめようとする。

 

 他にも、EU諸国の色んな話を本書は紹介してくれる。

 

 

 他の国がうまくいかなくなっているという種類の話は楽しい。まだ日本はマシなんじゃないかって思えてくる。まあ対岸の火事だと思って見ていられるうちはいいが、そんなわけにはいかないんだろうな……。